桜吹雪-3
「あの…朝はすいませんでした」
「い、いいの!気にしないで!!」
私は真っ赤な顔を隠すように手をぶんぶんと振りかざした。
夏の風がいたずらで教科書のページをめくる。
その拍子にまたしてもプリントが吹き飛ばされた。
そして見事に朝晴君の足下へたどり着くのだ。
朝晴君は三歩ほど歩いて机の前に立つと、「どうぞ」とプリントを差し出す。
まるであの時のようだ。
「朝は…いきなりの事で驚いてしまって」
「あ…だ、だよね!ごめんね」
私はすでに湯でだこ状態だった。
けれども穏やかで爽やかなハーモニーは続いている。
朝晴君は首にかけているタオルを、汗をぬぐうように顎下に当てた。
「俺、先輩の事、何も知らなくて…。先輩も俺の事なんか全然知らないんだろうと思ってたんで、本当に驚きました」
「………」
その言葉を聞いて、朝晴君があの日のことを覚えてないことを確信した。
私一人が舞い上がっていたのだと思い知らされた気分で、赤面はなかなか元に戻らない。
「朝の態度は本当に謝ります。すいませんでした」
「あの、本当に…大丈夫だから」
頭を下げる朝晴君に、私はおろおろと情けない声を出しながら立ち上がった。
その声は「あぁ、完璧にフラれてしまったんだ」という沈む気持ちの表れだったのだと思う。
私はどうも気持ちが表に出てしまう。
できるだけ明るい声で「わざわざありがとうね」なんて言葉をかけようかと考えてる間に、朝晴君は先に口を開いた。