桜吹雪-2
「加奈、私バイトだから先帰るね」
「あぁ、うん」
誰もいない教室でせっせと課題をする私。
中間テストの点数がひどかったのだ。
自業自得なんだけど、今更ながら少し後悔してみる。
『綺麗ですよね、桜』
出会ったあの時、朝晴君はそう言い残して去って行った。
桜が舞い散る中、日の光を反射して片耳のピアスがきらりと光っていた。
恋愛女の私には十分すぎる演出だった。
二年と三年の教室は階が違うし、近くを通るなんて滅多になかった。
だから、完璧な私の一方通行なのは分かってたけど…。
いきなりすぎるのも分かってたけど…。
あの答えは悲惨だ。
「はぁ」
大きくため息をつきながら止まっていた手を再び動かす。
吹奏楽部の演奏が初夏の風にのって耳に届いてくる。
〜♪♪〜♪〜♪〜
「あ、この曲知ってる」
合わせて口笛を吹いてみる。
そういえば、朝晴君と初めて出会ったあの時も吹奏楽部の演奏が聞こえていた。
見事なフラれ方をしたというのに、思いだしてつい、ふふっと笑ってしまう。
カタン―…
開けっ放しの夏の教室に一人の私は、ドアの側での物音に顔を上げた。
「いい曲…ですよね」
額に少し汗を滲ませた練習着姿の朝晴君が立っていた。
「あ、うん…そうですね」
あまりの突然の事に、私の思考回路は完全にストップしていた。
その証拠に後輩相手に敬語。しかも、何とも間抜けな声で。
学校中を包むハーモニーは次第に穏やかな曲調になっていく。