絆と運命-1
「どうしても?」
「ああ。」
たった今マコトが別れ話を切り出した。ユリにはそれが信じられない。
パタン・・。
静かにドアが閉まり、部屋にはユリだけが取り残された。
(ここは私の部屋なのにどうしてこんなに取り残された様な気分になるの?)
そう思ってやっと別れの実感がわいてきたのか、ユリは
「マコトぉ・・」
そうぽつりと呟くと、泣き崩れてしまった。
部屋にはユリの啜り泣く声が、いつまでも響いていた・・。
ユリは20歳。
高校時代は周囲から「軽い女」と噂されるほど、男関係は派手なものだった。
そんなユリも高校を卒業してすぐにOLになり、マトモな恋愛がしたいと思っていた。
しかし、本当の愛を知らないユリには人の愛し方がわからなかった。
それまでのユリにとって恋人と言う存在は、セックスフレンド程度であった。付き合えばセックスする。それ以外ない。
日々悩んでいたユリの前にあらわれたのがマコトだった。
マコトはユリと同い年。
同じように高校を卒業してすぐにユリと同じ会社に入社していた。
たまたま配属された部署も同じだったため、自然と親密な関係になっていった。
ユリには、マコトが初めて付き合おうと言ってくれた時の笑顔が忘れられない。
あの、日向みたいにあったかい笑顔・・。
付き合いはじめユリはとまどったが、マコトはそんなユリのありのままを受け入れた。
次第にユリも、ホントの愛とか難しい事は考えなくなった。ただ、自然と一緒にいる。
そんな事がユリにとって、この上なく幸せだった。こんな日がずっと続くんだろうと思っていた。
ぽたり、ぽたり。ユリの手の甲に、とめどなく涙が落ちる。
「なんで?」
突然の事に涙を流すしかできなかったユリの心には、悲しみの次に疑問が沸き上がってきた。
そういえば最近なんとなく、マコトの態度が冷たい気はしていた。
だがそんなに気にも止めていなかった。
ユリは、自分の気持ちにけじめがつけたかった。いつまでも悲しむのは、自分らしくないと思った。
それに、もしかしたら何かの間違いで会えばやり直せるかも、なんて調子の良い事も考えていた。
翌日―
ここはマコトが会社の帰りに必ず通る道。
ユリは期待と不安に胸を膨らませ、マコトを待ち伏せしていた。
すると、遠くにマコトの姿が見えてきた。そして、その横に・・。
ユリは絶望した。
マコトのあのあったかい笑顔は、もう他の人のもの・・。
ユリは走った。走って走って・・気が付くと自分の部屋だった。どうやって帰ってきたかは全く覚えていない。
心がぐちゃぐちゃだった。涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。わずかな期待など、あっと言う間に崩れ去った。
どのくらいたっただろう。ふと、ユリが呟いた。
「運命・・」
そういえば昔、マコトとこんな話をしたことがあった。
「なあユリ。運命って信じるか?」
「信じるけど・・絶対ではないと思うな。ほらよく言うじゃない。運命は変えられるって。」
「俺はそうじゃないと思うな。運命は変えられない。けど、悪い運命ばかりじゃないから、それでもいいと思うんだ。」
「実際俺とおまえがこうして一緒にいるのも運命だよ。神様は、俺たちに悲しい事と、嬉しい事を同じ分だけくれてると思うんだ。だから嫌な事があっても落ち込んだりしないで次の嬉しい事を待てばいいんだよ。」
そう、言っていた。
「やっぱり変えられないね?運命って・・。」
マコトのあの笑顔がこの運命は変えられない事を物語っていた。
「じゃあ、次の嬉しいことが来るまで私頑張るよ、マコト・・。」
ユリの顔に、優しい笑顔がともった・・。
人は、つい嫌な事ばかりと思いがちだが、そうではない。
ある人にとっては嫌なことも、ある人にとっては羨ましい。
平等なのだ。
その事を忘れずに、前向きに生きていこう・・。
明日へ・・。
END