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【魅惑のお客サマ。】
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【魅惑のお客サマ。-Aside-】-2

この春から東京の高校に通うことになった俺は、香川から一人東京にある親戚の家に居候することになった。
とは言っても、幼い頃会っただけで覚えてはいないのだが。
(此処か…)
白を基調とした家は、何だか童話に出てきそうなお洒落な造りをしている。
閑静な住宅街に位置している為か、車などが通ったとこを一度も見ていない。
「…俺には合わないな」
そう呟いてから、俺はインターホンへ手を伸ばした。
ピンポン、と定番の音が鳴る。
『はい?』
(早…)
まるで、待ち構えていたかのような素早い反応に一瞬戸惑う。
が、
「戸谷です」
そんな事で冷静さが欠けるようなのは俺ではない。
周りには無関心で、常に無愛想だが来る者は拒まず去る者は追わず、が俺なんだ。
『あら、ちょっと待っててね!』
ガチャ、と受話器を置く音がしたかと思うと、それはパタパタと廊下を走る音に変わった。
「あらまあ、いらっしゃい!」
戸が開き顔を覗かせたのは、この家の夫人だ…と思う。
小柄で華奢な体つきのその人は、とても人懐っこい笑みを浮かべている。
(…由謳みたい、だな)
頭には喜んだ犬のようにピンと立った耳が、良く目を凝らせば見えそうなくらいウキウキとしている。
「お世話になります…戸谷 史人です」
ペコ、とお辞儀をして微笑んだ。
そんな俺を見るや否や、ほぅ…と溜め息をつくと夫人は言った。
「イイ男になったわねぇ」
「いや…」
年上の女とはいくらか経験があるが、こんなに離れている人は全く手がつけられない。
いや、扱い方が分からない。
取り敢えず笑っていると、彼女は思い出したかのように家の中へ俺を招き入れた。
玄関には、サンダルや男物の靴がきちんと並べられている。
「ごめんねぇ、散らかってるけど…」
「全然です」
主人はもう出かけたのだろうか?人の気配が全く無いが。
棚にある写真を見たところ、3人家族のようだ。
(…女?)
入学式の写真らしい。ジックリと見ることは出来なかったが、多分女だ。
「他に…誰か居るんですか?」
そう尋ねると、夫人は「そうなのよー」と眉をひそめながら答えてくれた。
そして、呼んだのだ。
俺の記憶を呼び醒ます、その名前を。
「雛ー!史人君よー!」
(ヒヨコ…ヒヨコ……ぴよ…?)
「あの子ったら、昨日遅かったのよね」
夫人がそんな風に呟いた気がしたが、俺の耳には入ってこなかった。
ヒヨコ、という名が俺の脳内の大半を占めている。
「さ、荷物は置いて…お腹空いてない?」
「あ、いや…」
正直、腹は減ってるが食べ物なんかいらなかった。
ヒヨコという名のその人を、俺は早く目にしたい。
淡い記憶の隅にあるあの優しい人と、今この家で寝ているヒヨコという人が同じなのだという根拠のない確信…。
「雛起こさなきゃ…あ、史人君はこっちよ」
「あ、俺行きますよ」
今すぐにでも、その人に会いたい。
だが、一人娘が無防備にも寝ている部屋に、何年間も会ってなかった他人同然の男を行かせるだろうか…?
やはり、起きてくるのを待つしか…


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