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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-9

「ん。予想以上に綺麗だ……」
 ストレートな褒め言葉に、美弥はファンデーションの上からでも分かるくらいに頬を赤らめる。
「ウェディングドレスの魔法でしょ?」
 照れ隠しなのかそう言うと、美弥は龍之介を見据えた。
「本当に……治ったのね?」
「母さんや笹沢さんに触ってもジンマシンが出なかった事で、よく分かると思うけどな?」
「ん……」
 涙がこぼれないよう、美弥は上を向く。
 ウォータープルーフのマスカラではあるが、本番前に泣くのは控えたい。
「それじゃ、みんなが待ち飽きないうちに晴れ姿の披露に行こうか?」
 龍之介が、片腕を差し出した。
「ええ……」
 その腕を取ると、美弥は花婿の様子を伺う。
 花嫁が履き慣れないパンプスを履いている事を考慮し、龍之介はゆっくりと歩き始めた。
 と、その時。
「あ、ブーケ……」
 間抜けな声を上げて、美弥が立ち止まる。
 龍之介の異常な笑い声に気を取られてしまい、控室にブーケを置いてきてしまった。
「忘れ物よ、花嫁さん」
 ブーケを捧げ持った佳奈子が、微笑んで美弥に近付く。
「わ、すみません……」
 わざと遅れてやってきた佳奈子は、ブーケを美弥に手渡した。
「じゃ、改めて……」
「行きましょうか」
 
 
 参加者が見飽きないよう色調の微妙に違う白を揃えた室内に、二人は入場した。
 途端に、カメラのフラッシュが光る。
「ごめん。少し我慢して欲しい」
 フラッシュをまともに見てしまったために目がしぱしぱしている美弥へ、龍之介は囁いた。
「少し、写真を撮って貰わないと……式を安く挙げる一環でね。取材と撮影を、許可しなきゃならなかったんだ」
 そう説明してから、龍之介は不本意そうに眉間へ皺を寄せる。
「何だっけ……ほら、兄さんが騒いでたあのタウン誌」
「あぁ……」
 思わず、美弥は納得した声を出した。
「ラ・フォンテーヌで今春からブライダルプロデュースの会社と契約して、レストランウェディングのプランを立ち上げるんだ。僕達はそのテストって訳。で、あのタウン誌には『レストランウェディング、始めませんか?』っていうようなタイトルで取材と宣伝を載っけるらしいよ」
 色々なピースがあるべき場所へ綺麗に収まっていくような気がして、美弥は息をつく。
「にしても……何でまた一年も黙ってこんな計画を押し進めてきた訳?」
 龍之介は、カメラに向かって微笑んだ。
「きちんと進め始めたのは、一年半くらい前の事かな。あの時は、君をびっくりさせたくて……とてもいい計画に思えた」
 一年半前というと……龍之介が、アルバイトを始めた時期と一致する。
 龍之介に対して、美弥は視線を向けた。
 周囲の人間は愛する花婿へ信頼しきった眼差しを向けていると受け取ったが……花嫁ご当人は一体どういう事なのか説明しろと、隣で笑みを浮かべている人物に視線でプレッシャーをかけているのである。
「いいよ。一年だんまりを決め込んでた僕には、君の疑問に何でも答える義務がある。さあ、何から聞きたい?」
 十分フラッシュを浴びた二人は、窓際へと移動し始めた。
 そこに、二人のための席が用意されている。
「……バイトの給料で挙げる式にしては、豪華過ぎない?」
 龍之介のリードに導かれてゆっくり歩きながら、美弥は尋ねた。
 その問いに龍之介は体を少しかがめ、耳元へ口を近付ける。
「知らなかった?僕、金持ちなんだよ」
 言われた美弥は驚き……驚いたついでに、ドレスの裾を踏ん付けてしまった。


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