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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-10

「わきゃ!?」
 バランスを崩してすっ転びかけた美弥の事を、龍之介はとっさに掬い上げる。
 そのままお姫様抱っこの姿勢で、花婿は席まで移動した。
「六年くらい前、あいつからたっぷり金を貰ったからね」
 花嫁を優しく席に下ろし、龍之介は自分の席に腰を下ろす。
「でも押し付けられた金なんかに僕は用がないし、あいつから貰った金なんて汚くて手を付ける気もなかったから、銀行の口座に入れっ放しだったんだよ」
 小さく肩をすくめ、龍之介は言葉を続けた。
「まあ六年も経てば金の洗浄は済んだと思うし、あいつの金で結婚式を挙げるなんて侮辱くらい、許されるだろ?」
 個人的に色々と思う所はあるが、だいたいは納得できる。
 しかしひっかかる所があるため、美弥は口を開いた。
「お金の洗浄って……八年待っても、支障はなかった気が用意するけど」
 その年数にこだわる美弥に、龍之介は苦笑を向ける。
「言ったろ?二十歳になるまで、待てなかったんだよ」
 そう言い訳してから、龍之介は説明を続けた。
「でも、あいつの金を使うのは最低限にしたかったから……タイミングは遅かったけれど、しばらくバイトして金を稼ぐ事にしたんだ」
 龍之介は、目で少し離れた場所に置いてあるリングピローを示す。
 そこには、プロポーズの際に手の平へ落としたもの……マリッジリングが二つ、鎮座していた。
「結婚指輪を侮辱の手段に使うのは、さすがにどうかと思ったから……」
 とはいえ指輪はかなり値が張り、預金を引き出さねばならなかったのは計算の甘い所があったと悔やまざるを得ない。
「さて、皆さん!」
 新婦の父が声を張り上げたので、二人は口を閉ざす。
 直惟は、じろっと二人を眺めた。
 悔しそうに何事かを呟くと、指で目尻を拭う。
「こ、個人的には……」
 最初のスピーチを頼まれた直惟は、それを誤魔化すように喋り出した。
「この結婚に、反対したい」
 
 ざわっ……!
 
 動揺のざわめきが会場に走ったが、直惟は手を振ってそれを制する。
「結婚なんて、一生でそう何回も経験すべきものではない。その点で、サプライズウェディングなんていうのは非常にまずい」
 強硬な反対のスピーチではないと分かり、場の空気が和んだ。
「何故なら、それでは一方の好みしか反映されない事が多々見受けられると思うからな。しかし……我が娘の表情を見ている限りでは、花嫁の好みを十二分に反映した式らしい」
 にや、と直惟は笑った。
「まだ結婚するには若過ぎるんじゃないかとか、言いたい事はたくさんある。が、言い出したらキリがないしめでたい事でもないのでそれは控えておく」
 感情的な反発を乗り越え、親父殿は最後の最後で味方になってくれたようである。
 そこはさすがに大人、といった所だろうか。
「ただ、今日という日に二つの意味で巣立つ二人に対し……言いたい事は、ただ一つ」
 周囲に、緊張が走る。
「これだけ大騒ぎしたんだから、幸せにならないと絶対に許さん」
 龍之介は一瞬目を伏せたが、立ち上がって一礼した。
「美弥さんとお付き合いさせていただいた間、僕はこの上ない幸福を感じていました。ですが……これから始まる結婚生活で、僕は美弥さんを幸せにすると確約はできません」
 驚いたか、直惟が目を見開く。
「何故なら、幸せとは『なる』ものではなく『掴み取る』ものだと考えるからです。ですから、僕は美弥さんが幸福でいられるよう……満ち足りた生活を送る事ができるよう、最善を尽くします。僕は僕なりの最善を尽くし、それで美弥さんが充足を得られないのなら……」
 話が不吉な方向へ転がり始めたので、龍之介は言葉を切った。
 が、ここで美弥が立ち上がる。


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