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その心、誰知らず。
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その心、誰知らず。-1

目が覚めたとき、少女は見知らぬ部屋にいた。
畳、障子、布団……。
どれも家の物でないことはすぐに分かった。
少女は人の気配を感じた。
すぐに障子が開けられ、一人の和装の男が入ってきた。
「よかった。目が覚めたみたいだ」
「ここは?あなたは一体…」
「私は泉明寺敬世。ここは私の家だよ」
「どうして」
「この家の前で倒れていたんだよ。覚えていないのかい?」
「いえ………あ、」
「なにか、思い出せたのかい?」
「…………」
「言いたくないのなら言わなくていい。まだ顔色が優れないようだ、ゆっくりお休み」
「ありがとうございます」

障子を締める前、敬世は少女を見て、微笑んだ。



泉明寺敬世の息子、泉明寺由敬が本邸に訪れたのは、敬世が少女を保護してから丸一日が過ぎようとしていた時であった。

「そういえば、見慣れない履物がありましたが、誰かいらしてるのですか?」
二十代の半ばに、若くして社長に就任してから五年、早くも社長としての威厳が見受けられた。
久しぶりに会った息子の成長ぶりが、敬世は喜ばしかった。
「客間にいるよ。お前も会うといい」
「まさかまた僕に、結婚相手にと女性を用意した、とかじゃないですよね?」
「はは、まさか」
敬世は三十路を過ぎて未だ結婚しない息子の心配をしていた。だから由敬はまた敬世の見積もった女性に会わされるのでは、と考えていた。



客間の障子を開けた瞬間、由敬は息を呑んだ。
布団から上半身を起こしていたその女性、女性ではない。まだ少女と、子供と呼べる年齢ではないか。結婚相手にしては幼すぎる。
それだけではない―――
暫く由敬は戸惑っていた。
「あの……」
難しい顔をしている由敬に少女は声を掛ける。
「すまない。てっきり僕に断りもなく、見合いの席を用意されたのかと思ったんだ」
「あなたは?」
「僕はこの家の当主の息子で、由敬といいます」
「そうですか。あ、結婚相手だなんて…。私は敬世さんに助けて頂いただけですから」
「そのようですね。失礼しました。では、ごゆっくり」



少女の居た客間を後にし、由敬は敬世のいる書斎へと入った。
「父さん、どういうつもりですか」
「なにがだい?」
「あの少女ですよ」
「偶然だよ。神様が私に授けてくれたのかと思うほどに嬉しいがね」
「似ている…だけですよ」
「ああ、分かっているよ。生きていたらあの子は二十七だ。当時のままで居るはずが無いからね」
「少女の身元は?」
「記憶を無くしているわけではないが、彼女は自分の名前すら話そうとしないよ」
「どうするつもりですか?」
「家出か何かだろう。様子を見るさ。それに、私だってもう少し夢を見ていたいんだ……」



体力が回復した少女は、客間から出るようになった。
邸内を自由に見て回っていいと敬世の許しを貰い、興味本位のままに、広い日本家屋を見て回った。


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