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しにがみハート
【コメディ 恋愛小説】

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しにがみハート#9-1

「綾瀬さん、話があります」

夕日が街を照らし始めた頃、カフェから出た俺達を、姫雪が呼び止めた。
「ちょっと絢芽ちゃん貸してくれませんか?」
「ん、俺は良いけど……絢芽は」
「はいはい。今なら無料レンタル可ですよ」
「じゃ、ちょっと借ります」


〇〇〇


30分後。
絢芽と姫雪はまだ向かいのベンチで話し合っている。
顔から察するに、気まずそうな話はしてなさそうだけど。
なんだか、入り込みづらいっていうか、なんか女vs女が始まってるっていうか。
「なに話してんだろね? 絢芽ちゃんと姫雪ちゃん。俺達彼氏をおいてきぼりにしちゃってさ」
「さぁなー。つか、暇だ……」
「あっちむいてホイでもやりますか」
「断る」
「ですよね」
街中でそんな事出来るか。
「あの調子だと、もうちょい時間掛かりそうな気がするよな」
「んー、確かに」
ベンチでは姫雪が絢芽に何かを真剣に伝えようとしているように見える。
絢芽も、いつになく真面目に耳を傾けているようだった。
「ってことで、あっちむい――」
「断る」
「まだ言い切ってないのに……」
隣でしょげる理人はおいといて。
ベンチのほうを再び見てみる。
すると、絢芽が笑顔で手を振ってみせた。

でもなんだか……。
悲しい笑顔な気がした。


〇〇〇


「なんの話だったんだ? 絢芽」
帰り道。
あの後30分くらいして、長い『乙女の会議(by絢芽)』は終わりを告げた。
ま、その間俺達は暇を持て余しかくれんぼやら鬼ごっこやらしていた訳で。
はたから見れば痛かっただろう。
結局、遊ぶ時間が無くなったために今に至る。
というわけで。
「いやぁ、私ピンチみたいでして」
あはは、とおどけながら絢芽は言う。
「ピンチ?」
「あれですよあれ。親の財布からお金を取ったのはいいけど親に見つかった、みたいな」
ん?
要するに…
「それってやばいような」
「えぇ。まぁ私、簡単に言えば無断欠勤してますし」
「つまり、サボってんのをついに見つかったと」
「そうです! さすが孝紀さん、素晴らしい洞察力」
「……んなとこ褒められても」
「しかもですね、死ぬはずだった孝紀さんと一緒にいるっていう」
「……相当ヤバいんじゃ」
いや、マジでやばいんじゃないか。
笑顔で言っているものの、口調には相当焦りが感じられる。
「ってなわけで、明日から私消えちゃいます」
「……は!?」
「大丈夫ですよー。私ケンカ相当強いの知ってるでしょう? 大丈夫。3日で帰ります」
後ろのほうだけ気持ちを込めて、じっ、と、こちらを見据えるように言った。
「……おう。頑張ってこい!」
「……ふふ。大好きですよ! 孝紀さん」
「ぶっ!!」
よくもまぁ。
こんな恥ずかしい台詞をぬけぬけと……。
やばいな、恥ずかしさで死ねそうな日が来るとは。


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