しにがみハート#9-2
「…はい、家です。んじゃ3日後に、また、会おーう!」
大丈夫だ。
こいつは、いつまで経っても変わらない。
「じゃな。早く帰ってこいよ」
「やぁ、もしかしたら一日後に戻ってくるかも知れませんよぉ? 浮気なんて考えないで下さいよ」
「しなーいーって。早く帰ってこないと逆に浮気するぞ?」
「なっ……ついに私のペースを乱すようになるとは」
「毎日付き合ってりゃなるわ。じゃ、頑張れよ」
「……はい! さよなら!」
こうして俺達は、薄暗い道の真ん中、俺の家と絢芽の家の間で別れた。
この時の俺は、絢芽が『またね』ではなく、『さよなら』を使ったことにすら、気が付かなかった。
〇〇〇
「ただいまぁ、あー、疲れた」
玄関を開けると、椅子に座ってのけ反りながらメイクしている里紗姉から声が届いた。
どんな状態かは、皆さんの想像にお任せしとこう。
「おぉ孝紀、おかえりぃ。飯は?」
「腹減ってないし、いいや」
「あーそう。そだ、なんかいきなりテーブルの上にあんた宛ての手紙あったから部屋の前に置いといたよー」
「ん、さんきゅ」
……手紙ってなんだろう?
と思いつつ、俺は疲れ切った身体を引きずりながら2階へ上がっていった。
〇〇〇
「手紙ーっと」
机においてある、真っ黒な表紙の手紙。
どっかで見たような黒。
黒とは違う、黒。
封を開けてみると、これまた見慣れた文字で、丁寧に文が書かれてあった。
『拝啓 孝紀さん
拝啓の使い方知らないのでそれっぽくしてみました。合ってますかね?
んと、本人の前で言えなかったのですけど、私は3日くらいじゃ帰れそうにありません。
下手すれば一生(私死神ですけど)会えないかも知れません。
それだけ、私のやったことは罪深いことです。
勘違いしないようにいいますけど、姫雪さんのせいじゃないですよ。全て私の独断。姫雪さんはむしろ、助けてくれようとしてくれました。
なので、責めないで下さいね。
理人君にも、バラしちゃパニックしそうなんで言わないでください。
さて、一生帰れないと書きましたが、絶対に絶対に帰らない気はないです。
100%帰ってきます。
なので、家出じみた台詞ですが、探さないで下さい。
探してしまったら、少なからず孝紀さんにも被害が及んじゃうかもしれません。
死神として、孝紀さんの最期は私が見届けたいですし♪
あ、私死神なんで、手紙なんていくらでも飛ばしますよ。
じゃ、また!!
』
読み終えると、悲しいというか、なんだか解らない感情が沸いてきた。
それは。
寂しくて、
とても遠くて、
冷めきった、
怒り。