堕天使と殺人鬼--第11話---8
「確かに、凄く怖かった。まだ十五歳だったからな、やり残したこととか色々あって、信じられなかったし、ひたすら死に恐怖してた。でもさ、考え直したんだよ――自分の死は、決して無駄なことじゃないんだって。我が共和国には、何度も言うけど徴兵制がないから、少なくともそれのお役には立てるんだって……ね。それで、まあ、結局僕は生き残ったんだけど、それはともかく――君たちがこのプログラムのせいで死んだとしても、それは全く無意味なことじゃないんだ。プログラムに参加して、活躍することによって、共和国はまた新たに前進することが出来るんだよ。極端な話、君たちはこの共和国の、英雄になれるんだ。これは凄いことだよ。そうは思わないかな? まあ――思わないんだろうな、あれだけ反抗的な態度を取ってたんだから。」
最後の一文は、それまでの優しげな口調とは一変して、まるで非難するようなものだったが、いかんせん晴弥は納得がいかなかった。それはもちろん、他の生徒も同等であろう。
彼の考えを一応理解できたことはそうなのだが、晴弥からしてみればそれはただの、狂人の狂言、でしかなかった。有り難味を理解させようと語った三木原には申し訳ないが、晴弥に限らず、胸の淵で密かに毒づいた生徒は多いはずだ。まあ、だからこそ三木原は、?思わないだろう?と皮肉ったのだが、いきなりそんな割り切った考え方を、無理だと知りながらも要求して来たのだから、逆にこちらが皮肉ってやりたい気もする。まあ、そんなことを言える度胸など、晴弥は携えていないが――あくまで、心の中で、である(その時、晴弥の頭の中では、先程の美吹ゆかりのことなどとっくに消え失せていた)。
それはともかく、三木原の話の終わり方からまだ続くだろうことが安易に予想できたので、晴弥は三木原の息遣いにとりあえず集中することにした。そもそもまだ、袋の中身に関して、彼は触れていないのだ。
すぐに、疲れきったような声色で、三木原は続けた。
「だから僕は――」三木原の細く長い指先が、大袋のファスナーに掛かる。「君たちには、酷なことだと思うけど、これの中身を見せなければならない。」
晴弥は、目を逸らさずここで、覚悟を決めたのだった。緊張のせいか、掌が汗で滲んでいるのが分かる。ごくりと音を大きく鳴らして、唾を、ゆっくりと飲み込んだ。
三木原の指先が、勢い欲音を立てながらついにファスナーを全開にする。僅かに袋の中身が覗いたが、晴弥の位置からはあまりよくは伺えなかった。しかし――運悪くも、丁度死角のない範囲にいた生徒たちからは――そこには偶然にも女子生徒が多く集まっていたのだが、「きゃーっ!」と、実に見事なソプラノのコーラスが次から次へと奏でられたのだった。中にはソプラノのハーモニーによく溶け合うアルトの響きも混じり、ちょっと大げさな合唱祭のようであった。まあ、披露すると露骨に客が嫌悪しそうなほど、うるさ過ぎではあるが。
それはそうと晴弥は、自分の予感が見事的中しただろうことは、確信していた。それでも目を、逸らせなかった。
三木原の背後にいた守備防衛軍の兵士たちが、いつの間にか肩に掛けていたマシンガンを手に生徒たちにそれぞれ向けている。三木原は、ついに袋を全開にして中身を曝け出した。
その正体を知っていながら、晴弥は目を丸くした。そうせずにいられなかった。あまりにも惨く、無残な姿となった一人の少女――だったものが、そこにはあったのだから。
「そんな……嘘……嘘、いやああああああっ!」
女子主流派グループの金沢麻也(女子三番)が、他より一層悲痛な叫び声を上げた。