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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第11話---6

 何を思ったのか、事の成り行きを無言で見守っていた三木原は、相変わらず黒板の前にだらしなく立ち、いつの間にか煙草を吹かしながら、険しそうな顔をしている。
 急に三木原は、何を思い立ったのか入り口の方へ歩いて行くと、無言でそこを二度叩いた。それが意味するところを晴弥は知らない。ただそれで、再び生徒たちの注目が三木原に注がれた。
 三木原はもといた場所へ戻って来ると、これもいつの間に用意したのだろう灰皿に、灰を落とした。
 もはや誰も口を開かない。ただ、肩に負傷した愁に止血するために、アキラが自分のネクタイを強く巻き付けていることから生じる布同士が擦り合わされる音と、痛みを堪える愁の苦しそうな息遣いだけが残った。
 そんな時間もすぐに、幕を閉ざした。いきなり入り口が開かれ、三人の男たちが姿を現したのだった。
 一番初めに入って来た男は、三木原よりも若干背が低めの中年男性で、顔色が伺えないほど極端に黄色い顔をしていた。その男性の後に着くように入って来た二人の男の片方は、三木原よりも遥かに高い身長に、服越しにも分かるほどがっちりした体付きをしていた。こちらもわりとハンサムな顔立ちであったが、顎には無精髭が生えていて、強い迫力があった。そしてその広い肩には、何やら大きな袋を担いでいる。もう片方は、決して身長は低い訳ではないのだが、彼らの中では最も小柄で些か浮いていた。やや幼さの残る顔立ちには、何故か緊張の色が見え隠れしている。
 三人ともタイプはばらばらであったが、共通している部分が多々ある。まず、彼ら三人は三木原のようなスーツ姿ではなく、迷彩の入った戦闘服であった。肩から続くベルトに、大型の拳銃を提げている(まあ、一人は余分に重そうな物も担いでいたが)――マシンガンだろうか? それから、彼らの左腕にはやはり、政府関係者を表す桃色のバッチが光の加減で所々白く反射し、揺れていた。一目で、大東亜共和国の軍事組織である、専守防衛軍の兵士だと分かった。
 三人の兵士が完全に中に入ったことを確認すると、三木原はようやく口を開いた。
「えー、紹介します。専守防衛兵士の、中原、加藤、竹村です。今回、みんなのプログラムの補佐官をしてくれます。下の名前も知りたい人は、彼らの名札を見て下さい。」
 そう軽く紹介して、三木原は二本目の煙草にジッポライターで火を付けた。
 確かに三木原の言う通り、専守防衛軍の面々の胸元にはそれぞれ名札が付けられていた。黄色い顔の兵士は中原茂(ナカハラシゲル)、一番長身の兵士は加藤俊一郎(カトウシュンイチロウ)、小柄な兵士は竹村葉太(タケムラヨウタ)と言うようであった。
 三木原は黒板に背中を預けると、煙草を大きく吸い込んでそのまま煙を吐かずに呟いた。「それで……」
 彼の肺に溜まっていた煙が、その発音に合わせて唇の隙間からか細く漏れている。全てを吐き出す前に彼はもう一度煙草を吹かして、ゆっくりと吐き出した。吐き出しながら、呆れたようにニ、三度首を左右に振ると、三木原は続けた。
「……君たちは、本当に聞き分けがない。本当はあまり見せたくはなかったんだけど……あ、加藤、それあそこに置いてくれ。」
 そうやって一旦言葉と区切ると、三木原は一番大柄な男――加藤と言うらしいその兵士に、まだあまり列の崩れていない机の集団を指差しながら言った。また煙草を口にくわえた。
 加藤が頷いて、一つの机の上に例の、肩に担いであった大袋をゆっくりと横たえる。それで初めて気付いたのだが、その袋のサイズは本当に大きいもので、恐らく晴弥の頭から伸ばした状態で両足まで入れても、余裕がありそうだった。
 晴弥はそのことに、何か不吉なものを感じ取った。改めて袋を眺めてみると――それはグレーの寝巻に似ていたのだが、所々変色していた。グレーからは連想されない茶色の染みが、点々としている。その染みの色にも不快感を覚えた。一応茶色――ではあるのだが、赤色が強い気がする。この色と酷似したものをつい最近、いや、ついさっきか、見たような気がする。確か――そうだ、今だって視線を少しだけ右下に動かせば、そこにあるはずである。負傷した友人の肩から溢れ出した、グロテスクな、血液の色が――。
 寒気が襲った。爪先から頬まで、一気に鳥肌が立ち上がった。袋の中身の正体を知ってしまった現実を、認めたくなかった。気付かないふりをしていたかった。だって――だって、まさか、あの中は――。


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