『beat mania UDX』より不夜城の仲間たち〜ナイア-8
電話の相手は鉄火。内容は、前に孔雀が鉄火の家で寿司をご馳走になったので、礼がわりに小さいマスコットを作ろうと言ったことについてだ。
「誰がいい?」
孔雀は笑いをこらえながら、鉄火の返事を待った。
『セリカさん……のを……』
「ああ、セリカね。わかった。しっかし好きなんだなぁお前……」
孔雀はその返事を聞き、さらに二言三言を交して電話を切った。セリカが通路にいるのに気付いたため、早めに電話を切ったのだ。
そして、セリカに作りかけの人形を見せたのは、実は鉄火のためである。
本当は、別に識の店で作業をする気はなかったのだが、もし鉄火がセリカに人形を持っていることがバレたら、言い訳の出来ない鉄火が可哀想だからだ。
あの時、セリカに自分が人形作りをしていることを知らせておけば、万が一の時も、鉄火は孔雀さんから貰ったとかの言い訳がつけるだろう。
「さっさと識の注文を終わらせて、鉄火のにとりかかるかな」
人気のない道でそう一人でぼやいていると、前から一人の女性が歩いてきた。
どこかで見たことがあるような気がして、孔雀はすれ違いざまに女性を見た。
宵闇の様に黒く長い髪を、後ろで一つに縛っている。ポニーテールと呼ぶには長すぎるだろう。反対に、顔は透き通る様な白だった。上下共に黒のライダースを着ている。
ただ見かけたことがある、というだけだったので、何も言わずにそのまま歩き去ろうとすると、不意にその女性に呼び止められた。
「おい」
「ん…なんだ?」
「アンタ…見たことがある。確かあのゲーセンの奴だろ」
「まぁ、そうだけど。なんだ?」
「ナイアって奴、今いるかい?」
季節は淡い春から段々と夏へ変わっていく。不夜城にまた新たな風が吹いたが、それはまた、別のお話……。