10年越しの会話-1
朝、学校に登校すると、私より早く登校していた絢音が私の席に陣取っていた。
「ひ〜じりっ!昨日どうだったの?例の人とは会えたの?」
「う゛…」
(さ、早速来たぁ…)
「なぁに?まさか会えなかったの?すっぽかされた?」
「え、えぇっと…」
(言えない…言える訳がないっ!ずっと忘れられなかった人が、この学校の生徒だったなんて…)
絢音はしばらく私をじっと見て、頬杖をつきながら言った。
「ふぅん…会えたんだ?」
「えっ!?なっ、なんでぇ?」
(なんでバレてるのよ…)
慌てる私を見て、絢音は満足気に微笑んでいる。
「あはっ、そんな顔してたらバレバレだってばっ!ホント、聖って分かり易いんだから…」
「え?え?えぇっ!?」
「はいはい、慌てるのはそれくらいにしてね!で、どうだったの?会えたんでしょ?」
「う、うん…」
「良かったじゃない!って、なんでそんなに浮かない顔してんの?」
「だ、だって…あのね……」
キーンコーンカーンコーン…
私が意を決して話そうとした途端、チャイムに邪魔をされてしまった。それとほぼ同時に、担任が教室に入って来る。
「あ〜、ザンネン!また後で訊くから覚悟しといてね〜!」
絢音は手をヒラヒラさせて、足早に自分の席へと戻って行った。
絢音の後ろ姿を見ながら、私は脱力して自分のイスに座る。
「はぁぁ…」
(話すタイミング逃しちゃったじゃないのよ…先生のばかっ!)
私は昨日、10年間ずっと『会いたい』と思ってた相手と再会したの。
幼い頃に交した約束を、彼もずっと覚えててくれた。私と同じ気持ちで居てくれた。それが素直に嬉しかったの。
でも…私の胸の中に何かが引っ掛かっている。それが何かは解らないけど、凄くモヤモヤして気持ちが悪い。
浮かない顔をして見えるのは…たぶんそのせいなの……
「さぁ、聖…観念して吐きなさいっ!」
「う゛ぅぅ…」
只今お昼休み…お弁当を食べながら、私は絢音に朝の話題の続きを振られている。
「吐け〜っ!吐け〜っ!」
「あ、絢音サン…食事中にその言葉を連呼するのはどうかと…」
「だぁって、聖が教えてくれないんだもんっ!」
絢音は片手にミニトマトが刺さったフォークを持ちながら、頬をぶぅっと膨らませている。
(やっぱ言わなきゃ…ダメだよね?)
一度タイミングを逃してしまうと、なかなか話す勇気が出ない。
私は深呼吸を一つしてから、腹を決めて口を開いた。
「あ、あのね…驚かないで聞いてね?」
「うんうんっ!驚かない驚かないっ!」
「あのね、実は…彼も…同じ学校だったの……」
「はぃ?」
「光輝君、うちの高校の生徒だったのっ!しかも同い年!」
「はぁぁ!?」
絢音は目を丸くして、口を大きく開けたまま固まっている。
(もぉっ!驚かないって言ったじゃないっ!)
「ちょ、ちょっと聖…冗談でしょ?」
「それが冗談じゃないんだよね…」
「うそぉ…だ、だって…うちらもう3年生だよ?ずっと同じ学校に通ってたのに気付かなかったの?あんなに『会いたい』って言ってたのに?なんでそんな間抜け状態になってんのよっ!?」
「し、仕方ないじゃないっ!だって光輝君…S…クラス…だったんだもん……」
「あぁ、なるほど!納得!そりゃぁ面識無い訳だわね。」
絢音はうんうんと首を縦に振ってから、やっとフォークに刺さったミニトマトを口にした。