銀色雨傘V-2
「どうしたの、」
振り返った美咲の顔は、ガラス越しの仄白い光のもと蒼白く見えた。瞳が何かに怯えるように揺らいでいる。
「どこかへ行くの?」
美咲は唇を微かに震わせて、何かつぶやいたようだった。しかし咲貴の耳には何も聞こえなかった。
「……待っててくれる?」
消え入りそうな声で、やっとそれだけを美咲を言った。
「分かった。待ってる」
答えてしまってから後悔したが、美咲は小さく頷くと、引き戸を開けて出て行った。硝子越しに、白い傘が花のように開くと、そのまま溶け込むように遠のいていく。咲貴は傘の色が、白というよりはむしろ銀色に近いことに、今さらながら気づいた。
――その日、いくら待っても美咲は帰ってこなかった。