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最後の特攻兵
【戦争 その他小説】

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最後の特攻兵-1

昨日、明日正午に重大放送があると隊長殿はおっしゃっていた。
そして今、古ぼけたラジオから流れるそれを聞いている。
だだっぴろい飛行場の真ん中にあるピスト(搭乗員待機所)の中で雑音だらけでよくわからないそれは日本の敗戦を伝えていた。

涙が流れた。

この南の小さな飛行場から飛びたった仲間達は、東京の家族は何のために死んだのか、そして俺はこれから何をすればいいのかわからなかった。

ただ虚しさと脱力感だけが俺を支配する。陽炎の中に明日、俺が乗るはずだった零戦が見えた。黒く輝く25番(250キロ爆弾)に美しいフォルム。だがあの機が敵を恐怖に落としいれることはない。

海軍特別攻撃隊
第六震天隊
海軍少尉野村重政

これが、今日までの俺の肩書きだった。
だが、明日からはただの敗残兵だ。
あの零戦も、武装解除でペラが外されるのだろう。

蝉が一匹、足元に落ちて死んだ。

「日本海軍の栄光の歴史は70年…セミの寿命は7日」

そのかわり俺の寿命は70年に伸びた。だが空襲で家も家族も失い。後から行くと誓った戦友はみな九州沖の空に散った。そんな俺にこれからの半世紀に何の価値があるというのだ。

自決

という言葉が頭をよぎって消えた。

ピストの向こうで隊長殿が訓示をしているのがかすかな風に乗り耳には入る。

『停戦の大海令は受けていない。自衛戦闘の可能性はあるため戦闘機搭乗員は待機』

俺は、自分の飛行機に向かって走っていた。停戦命令はまだ出ていない。ならば!!
チョークを払いコクピットに乗り込む。

「コンタクト!!」

エンジンが始動、ペラがまわりはじめる。

『おい!そこ!終戦だ!降りろ!』

基地司令の声は高鳴るエンジン音でかき消され俺の零戦は基地を飛びたった。
眼下に見える桜島。

「さようなら」

一言呟くと、俺の零戦は南の海を目指した。



海軍特別攻撃隊
第六震天隊
海軍少尉野村重政
8月15日、九州南方海上にて戦死






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