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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの手紙-1

「早く会いたいな…」
「ん?何か言ったか?」
「いや、別に。」
桜の花を見る度に思い出すあの笑顔…待ち続けた10年の月日は長かった。

俺・瀬沼 光輝(セヌマ コウキ)には、どうしても忘れられない人が居る。
その人とは10年後に会う約束をして別れた。
そして、もうすぐその約束の日がやって来る。
今どこで何をしてるのか…俺は彼女について何も知らないけど、絶対に会えると信じてる。


「俺さぁ、さっき宮木さんに会っちまったよぉ…可愛かったなぁ…って、光輝?聞いてっか?」
「悪い、やっぱ俺、今日サボるわっ!」
「お、おいっ、光輝っ!ちょっと待てよっ!授業どうすんだよ?もう担任来るぞ?」
「任せる!」
「任せるって…か、勘弁してくれよぉぉ…」
待ちに待った約束の日…逸る気持ちを抑えて登校したまでは良かったが、どうも気が焦ってしまって、授業を受ける気にはなれなかった。
周りから痛い視線を向けられながら朝の教室を飛び出すと、俺はそのまま約束の場所へと直行した。


到着した公園で俺が見たのは、寂しい景色…先週満開を迎えた桜の花は、もう若葉を広げ始めていた。
(やっぱ、散っちゃったか…)
ここの桜の下で会う約束だったのに、肝心な花が無いとなると、彼女が来てくれるかどうか不安になってしまう。
俺は10年間も今日の桜を待っていたのに、待ちに待った10年目の桜は今日という日を待ってくれなかった様だ。

若干沈んだ気持ちのまま暫し佇んでいると、急に目の前を鮮やかな花びらが横切った。
誘われる様に風上に目を向けると、そこでは遅咲きの桜がまだ豊かな花びらを広げている。
俺は早速場所を移動して、その花を見上げた。

華やかなのにどこか控え目な桜の花は、まるで彼女の様…こうして眺めているだけで、彼女と過ごした時間を鮮明に思い出す。


彼女・ヒジリと出会ったのは病院でだった。
ずっと入院していた俺の隣のベッドに、何人目かに入院して来たのがヒジリだった。

ヒジリはとても明るい女の子で、いつだって病室には彼女の笑い声が響いていた。そして、皆に愛されていた。
でも俺は、彼女と友達になりたいとかは特に思わなかった。
誰と友達になったとしても、皆俺より先に退院して、俺の事なんか忘れてしまう。退院出来ない俺にとっては、そんなの苦痛以外の何物でも無い。それならば…最初から友達になんてならなければ良いと思ってた。
だから会話は愚か、目を合わせる事だってしなかった。


俺がヒジリと初めて話したのは、雪がちらつく寒い夜の事…ヒジリが入院して暫く経った時だった。

「ひっ、う゛ぅぅ…」
耳慣れないくぐもった泣き声に、俺は真夜中だというのに目を覚ましてしまった。
「うわぁん…恐いよぉ…ママぁ……」
どうやらその泣き声は隣のベッドかららしい。
(いつも元気な奴なのに…泣くなんて珍しいな……)
隣の奴が泣いてる所なんて見たことが無かった俺は、つい声を掛けてしまった。
「うるさいんだけど…」
「だ、だぁれ?」
「隣だよ、隣っ!」
「へ?」
ベッドを区切るカーテンを開けると、ソイツは頬を涙で濡らしたまま目を丸くしていた。
(うっわ、ひどい顔…てか、コイツの名前何だっけ?)


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