「強制的な彼は。」-1
今日は、委員会がやけに長い。
急いで教室に戻ると、蓮見君が窓際の席に座って居た。
あれから彼は、毎日欠かさず送迎係を務めてくれている。
「ごめんね、遅くなって…」
謝りながら近付くと、無言で腕を引かれる。
仄かに甘い香りがするブレザーを纏った細身の体に、抱きとめられた。
香りが、私をも包み込む。
「あっ…」
「羽苗が欲しい」
耳元での求愛。
今まで生きてきてそんなのは初めてで、
「だめっ」
テンパって拒否。
そして、ちょっと後悔。
「どうして…?」
そう言って、顔を近付けてくる彼。
どきどきどきどき…
きっと、真っ赤になっちゃってる。
思わず、顔を背けた。
「リンゴみたいですよ」
そう言いながら、大きい手を伸ばしてきた。
冷えた指先が、頬に触れる。
ピクッ、と肩が震えた。
「だって、私のだもん」
至近距離で触れられて、思わず首をすくめる。
指は、耳をいじり始めた。
「俺の…ですよ」
穏やかな話し方、温かい笑み…。
なのに、指はやらしい仕草で首筋を這っている。
窓から射し込む夕陽が、彼の顔に影をつけている。
「違う?」
首筋から鎖骨へと、指は肌を休みなく撫でる。
「う…ん」
襟を少し捲られ、鎖骨の窪んだところにあるホクロも露になる。
「俺のなんですよ」
有無を言わさない、強い口調。
不意に手を引かれて、彼の口へと運ばれた。
そして、含まれる。
思わず立ち上がる。
「ひゃ…」
「まだ?」
「え?」
恥ずかしくて、手を引こうとすると話し掛けられた。
モゴモゴとした感触が、指に伝わってくる。
「まだ羽苗の?」
上目遣いで尋ねてくるその光景に、ドキっとする。
「う…」
うん、と言い掛けて言葉に詰まる。
違うと言えば、離してくれるのだろうか?
ならば、仕方ない。
「ううん、蓮見君のモノだよ」
彼の目を見つめて言う。
すると、形の良い目が細まった。
私の手を解放すると、ホッとする間も無くそのまま腰を抱いてくる。
座っている彼は、顔を胸に埋めた。
「ちょっ…」
肩に手を置いて引き剥がそうとする。
でも…
「羽苗…良い匂いがする」
初めて、蓮見君の弱い部分を見た気がした。
「はす…」
恥ずかしいっ!!でも、何か可愛い。
蓮見君て、完璧なんだもの。
こんな私を必要としてくれてる…嬉しいな。
「離したくない」
そう言って、胸に頬擦りしてくる蓮見君の頭を思わず撫でた。
「いいよ」
「え?」
蓮見君が驚いたような声を出す。
そんな声をも愛おしくて、彼の頭を抱き締めた。
「私も、離したくない」
自然と口から出た言葉が、蓮見君と私を繋ぐ。
更に腰を抱く力を強めた彼は、顔を埋めながら言った。
「柔いですね」
「セクハラ…」
「姫、言葉が乱暴ですよ」
苦笑しつつも、熟と彼のモノである幸せを知った私なのだった。
●End●