恋の奴隷-1
その日は仕事でいつも忙しいパパが、久しぶりに食事に誘ってくれて。
お気に入りのドレスに着飾って、上機嫌で向かったの。
これから起こる嵐のような現実を知る由もなく―
私は瀬永柚姫【せなゆずひ】、17歳。十年前にママが病気で死んでしまって、それからはずっとパパと私の二人きりで暮らしている。小さな頃からパパは忙しい人だったから、寂しいなんてわがまま言って困らせないようにしてきた。その代わりたまの休日には色々な所に連れて行ってくれて、いっぱいいっぱい甘えさせてくれて。甘いフェイスのせいか年の割に若くて、背が高く、すらっとしていて。マイペースでおっちょこちょいで、おっとりとした性格のパパ。私も黒目がちのくりっとした丸い目や、すっと通った鼻筋は、どちらかと言えばパパに似たのだと思う。似ていない点といえば、長身のパパと比べて私は150センチ程度しかないことだろう。少し頼りないけれど、柔らかい笑顔にちょこんと出るえくぼが可愛くて、私はそんな優しいパパが大好きなの。ここ最近はパパとすれ違いの生活で、ゆっくり話しをする時間もなかったから私は余計嬉しくて、パパの隣に寄り添って歩いていた。
「パパと外食なんて久しぶり。柚ね、お洒落してきちゃった」
私はにこにこしながら白いシフォンのドレスの裾を揺らしてみせた。
「柚ちゃんにとっても似合ってるね」
そう言ってパパはにこりと微笑んだ。でも今日のパパは何だかそわそわしていてさっきから時計ばかり気にしているわけで。
「もぉッ!せっかくのデートなのにパパったらさっきから上の空じゃない。どうしたのよ」
都内にある某ホテルのレストランに着いてからもより一層、落ち着かない様子のパパに私はむっとしてそう問いかけた。
「あ、あのねッ」
「諒一【りょういち】さん」
パパが意を決して何かを話そうと口を開けた瞬間、私のすぐ後ろからパパの名前を呼ぶ声が聞こえ、パパが慌ててその場に直立したものだから、私も不思議に思い振り向いた。そこには綺麗な女性とパパと同じかそれより背の高い男の子が立っていた。そしてその女性は私と目が合うと控えめに会釈をしてきた。
「誰なの?」
パパの方を向き直して怪訝そうに小声で耳打ちをすると、
「じ、実は…パパ再婚しようと思ってるんだ」
「そう再婚…って…はいッ!?」
パパはどもりながらいきなりそんな突拍子もない事を言い出した。
「…で、説明してもらいましょうか」
すっかり不機嫌な私はパパの方を睨みつけると、オドオドして俯いて。本当に頼りないんだからと小さくため息を漏らした。
「あ、あの…柚姫ちゃん…よね?自己紹介がまだだったわね。はじめまして。麻生彰子【あそうしょうこ】です。こっちが息子の優磨【ゆうま】で…」
それに見兼ねたのか、女性は引きつった笑みを浮かべながら話しを始めた。
五年前にパパが足を骨折して入院していた先の病院で、看護婦の麻生さんとパパは出会ったということ。
接していくうちに段々とお互い惹かれていって。
パパと出会う数年前に夫を事故で亡くしていて、パパが精神的な支えになっていたということ。
再婚はお互い子供が大きくなるまでよそうと考えていて。
そして今日に至るというわけで。
「柚姫、黙っててゴメンね。でもパパの最後のわがまま、聞いて欲しいんだ」
それまで相槌を打ってばかりだったパパが、真っ直ぐ私を見据えて言う。