恋の奴隷-3
「へぇー柚姫も大変だったのね」
「エビフライ取られたんだよ!?パパはいつも自分の分も柚にくれてたのにさ」
翌日、同じ学校の親友、結城夏音【ゆうきなつね】と買い物をしに表参道へやって来ていた私は、休憩がてらに入ったカフェで溜まりに溜まった不満を聞いて貰っていた。
「よしよし」
がっくりと肩を落としてうなだれている私に、夏音は困ったように笑いながらケーキを差し出して宥める。夏音は漆黒のストレートのロングヘアーが魅力的な正統派美人。困った時はいつでも話しを聞いてくれて。私達の通う高校は中高大とエスカレート式で、夏音は中学の頃からの親友。
「でもさぁ、カッコイイとか思ったわけじゃない?もしかしたら恋に発展したり…」
「げほッ!」
夏音がそんな事を言い出すものだから飲んでいたオレンジジュースを思い切りむせてしまった。
「あ、ゴメンゴメン。冗談よ」
「笑えないよぉ!柚はあんな子供っぽいのは嫌なの!パパみたいに優しくて、でも理想は柚を引っ張っていってくれるような大人な人なの!!」
そう言ってケーキを頬張ると、何やら背後に嫌な気配を感じて。
「…誰が子供っぽいって?」
「なッ!?」
後ろを振り向くと、優磨が恐ろしく不機嫌そうな顔をして仁王立ちしていて。その額にはブッツリと青筋が浮き上がっている。
「腹減った。帰るぞ」
「な、何でいるの!?柚、出掛けるからって言ってたし、優磨も用事あるって…」
そう言い返してみたものの、完全に聞く耳持たずといった感じで。
「柚姫、彼が噂の…」
小声でそう聞いてくる夏音に、私は涙目になりながら頷いた。そうこうしているうちに優磨は私の荷物を持ってお店から出て行ってしまう。
「夏音ゴメンね」
「ううん、私の事は気にしなくていいから。また話し聞くからね」
心配そうにしている夏音に、頼りない笑みを浮かべつつありがとうとお礼を言い、私も優磨を追い掛けて店を出た。
「ねぇッ!ちょっと!待ってよ!」
「何だよッ!」
ズカズカと前を歩いていってしまう優磨の服を引っ張って、優磨もようやく足を止めて、後ろを振り返る。けれどさっきよりも一層怒りに満ちたその目に一瞬ひるんだものの、
「何でそんな勝手なことするの?」
しっかりと優磨を見据えてそう問いかけた。
「…うるせぇよ!」
優磨は怒鳴ってまた歩き出してしまって。
「グスッ…」
「…おい、早くついてこいよ」
何だか急に悲しくなってきて涙で視界が滲む。
「置いてくぞ!」
「いいもん…」
きゅっと唇を噛んで涙を堪えてもボロボロと涙が頬を伝う。すると優磨が急にオロオロし出して。
「柚、ゴメン。もう俺こんな勝手なことしないから。ね?泣かないで?」
眉がすっかり下がって、困ったような顔で頬の涙を指で拭う。
「グスッ…ほんとに…ヒクッ悪いと思ってる…?」
不安げにこくりと頷く優磨は何だか怒られた小さな子供みたいで、可愛くて。
「じゃあ許す」
そうにこりと笑って頭を撫でてあげた。すると耳まで真っ赤にしちゃって可笑しくて。
「わ、笑うなよ」
私はさっきとは違う涙を浮かべて、喉の奥で笑いを噛み殺した。