暗がりにて-2
ぷつ・・・。
皮膚に刃が食い込む音がした。
『ぎゃぁぁぁああ!!』
そんなに痛くないはずだ。僕にしてきたことよりまだまだ生温い。
びびびぃ・・・。
ゴリゴリゴリ・・・。
僕はゆっくりと鋸を動かす。真っ赤な血がどくどくと流れ出した。
鉄の臭いが濃密になり、鼻の奥と頭の後ろ側がじんっとした。
その痺れがあの魔女のことを思い出させた。
僕の中で何かが起き上がった。
『い゛い゛い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛い゛!!う゛っう゛え゛あ゛あ゛あ゛!!』
煩い。とても煩い。
これは復讐?
何の為に?
そんなことは忘れた。
僕は誰?
どうでもいい。
僕に名前なんかなかった気がする。
そうだよ。何もかも魔女が奪ったに違いない。
僕にも魔法をかけたんだ。
人を殺すことに快楽を覚える魔法を・・・。
まぁ、どうでもいいんだ。今はとてもいい気分で、とても嬉しい。
ゴリゴリゴリ・・・。
ガリガリガリガリ・・・。
ブチィ!!
骨の向こう側の筋肉か何かが切れたらしい。
もう素手で引っ張ればちぎれるだろう。
ぐらついた手を掴む。柔らかく、さらさらとした肌にぬるぬるとした真っ赤な血が纏わり付いていて滑る。
ぐっ!
ミチミチ・・・。
グチュ・・・。
みりみりみりぃ・・・。
ブチィ!!
思った通り、ちぎることができた。
神経?みたいなものが糸を引く。
ねっとりとした血が、手に絡んでべとべとになった。
身体から分離した手は何ともいびつで可笑しかった。
僕はその手をうっとりと見つめた。
たくさんの血が溢れてベッドの下にまで血溜まりが出来ていた。
なんて楽しい。
さっきから鼓膜が雑音をとらえなくなったと思ったら手首から血を流した女が口を大きく広げ、白目を向いていた。
誰だっけ?
まぁ、いいか。
僕は今が楽しくて仕方がない。楽しくて楽しくて、何もかも忘れてしまった。
生暖かい血。
鼻を突く濃厚な鉄の臭い。
薄桃色の肉の断面。
骨を砕く感覚。
手に残る感触、身体で感じる快感。
ひとつひとつが僕を酔わせるのを感じる。