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我が人生一片の悔いあり
【コメディ その他小説】

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我が人生一片の悔いあり-2

『俺はまだ肉まんを食ってねぇ。』

冗談じゃない。俺は今猛烈に肉まんが食いたいのだ。肉まんを肉まんと足らしめる肉どころかあの甘い皮すら味わっていないのだ。なのにこのまま冷たいコンクリートの上で死んでいいのか?もちろんだめに決まってる。せめてあの肉まんを食べるまでは俺は死んでも死にきれない。
俺は肉まんを食うべく渾身の力を振り絞って起き上がった。

もちろん起き上がれるわけがない。当たり前だ。現実はそんなに甘くない。肉まん一つで生死の分かれ目から生還できるのなら俺はばあちゃんとじいちゃんに肉まんを1ダースプレゼントする。保険に入るよりはるかに安くつくというものだ。
俺の意識は『肉まーーん』と叫びながらブラックアウトしていった。


次に気がついたら、明るいところにいた。周りに白衣を着た人たちがいる。たぶん病院だろう。17年生きてきて初めて気づいたが、どうやら俺は状況把握能力が高いらしい。
『先生。患者の意識、戻りました。』
『そうか。…ふむ、瞳孔の動きは正常だな。』
どうやら病院で間違いないらしい。ということは俺は生きているのか。だがそんなことはどうでもいい。英単語はまともに覚えられない俺の頭だがあることを鮮明に覚えていた。
「・・・」
『先生、何か言ってます。』
『ん?何かね?』
「‥に‥・」
『ん?』
「‥にく‥ま‥ん」
『…何?』
「肉‥まん‥」
『君、なんて言ってるかわかるかね?』
『肉まんと言ってるかと。』
「肉まん‥どこに」
『…事故のショックによる錯乱だろうか?』
『バイタルは脳波ともに正常ですが。』
『ふ〜む。』
「俺の‥肉まん。」
『あの、病室の前に家族の方がいるんで呼んできましょうか。』
『そうだな。容態も安定してるし。』

『どうぞ、こちらに。』
「宗也!!大丈夫!?」
宗也と言うのは俺の名前だ。入ってきた母さんは泣いていた。ただこの前のドラマの最終回のほうがもっと号泣していた。せめてもう少し涙の量が多いほうがよかった。
『あの、お母さん、実は先ほど目を覚ましてから肉まんと何度も言ってるのですが何か心当たりはあるでしょうか?』
「肉まん…ですか?いえ、わかりませんが。」
『とにかくこちらに。』
「宗也、大丈夫?」
ここにくるまでに俺の頭もだいぶまともに考えられるようになってきた。さすがに肉まんを連呼してもわかるはずがない。わかったらエスパーだ。ユリ・ゲ○ーもスプーンを曲げている場合ではない。だから俺は質問の内容を変えた。
「母さん、俺が持っていた肉まん知らないか?」
「えっと、事故を起こしたときの?」
「そう。」
「肉まんがあったかどうかはわからないけど、あなたの荷物はぐちゃぐちゃになったから肉まんもたぶん…。」
俺の中の糸が切れたような気がした。
「…そっか。」
一気に脱力した。
「宗也、肉まんが食べたいの?」
「いや、いい。」
ここまで騒いどいてなんなんだが俺は別に肉まんが大好物というわけではない。むしろあれば食べるといった程度である。ちなみに俺の場合、他にはバナナとヨーグルトがこれにあたる。自分でも何であれだけ肉まんにこだわったのか今はもうわからない。
「ふう。」
疲れた。事故とか関係なく、無性に疲れた。


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