刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜後編》-5
「じゃあ、先輩は何か渾名とか無いんですか?」
渾名と言われ、千代子はビクッと身体を強張らせた。
「先輩?」
「………チョコレート」
千代子はほとんど聞こえないような声で言った。
「チョコレート…なるほど、千代子って名前からですね」
辛うじて聞き取った疾風が言う。
だが、千代子はさらに続けた。
「………爆弾」
「へっ?………チョコレート爆弾…ですか?」
恥ずかしそうに千代子は頷いた。
「アタシ…結構荒れてて…それで名前にかけて…」
「そ、そうなんですか…」
重苦しい沈黙が降りてきた。
「で、でも!最近はそんなに暴れてないから!」
そんな空気を払拭しようと千代子は精一杯の明るい声を出した。
「えっと、その…改心したと言うか、更正したと言うか…
とにかく、今はただのチョコレート好きだから!」
疾風はそんな必死な様子の千代子に一瞬、ポカンとした表情を作る。
だが、徐々に唇が歪んでいく。
「…くっ…くくく…♪」
堪えきれなくなった笑い声が口から漏れる。
「な、何だよ!笑うなよ!」
「す、すみません…♪」
そう言いながらも疾風は唇が震えるのを抑えきれなかった。
「更正して、ただのチョコレート好きって…♪」
「笑うなー!」
そう叫ぶが、やはり笑いは止まらない。
(チョコ好きにしたのはお前なのに…)
軽く頬を膨らましながら千代子は思った。
「すみません」
「もう…」
笑われたことは、少なからず腹が立ったが、こういう他愛も無いやり取りは嫌いではなかった。
「そうだ。チョコレートが好きなら、チョコ先輩って呼んでもいいですか?」
突然、思い付いたかのように疾風が言う。
「あ、先に言っておきますけど、チョコレート爆弾じゃなくて、普通のチョコレートの方ですから。
それに先輩のその髪色からもチョコレートを連想させるんですけど…」
「アタシの髪…?」
「そうです。染めてるけど、先輩の髪って綺麗じゃないですか」
「えっ…?」
その瞬間、千代子の脳内で疾風の言葉が繰り返される。
先輩の髪って、綺麗じゃないですか…
先輩の髪って、綺麗じゃないですか…
先輩って、綺麗じゃないですか…
最後のは違うが…