刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜後編》-3
「判断するところがそれだけかぁああ!!」
ホグゥワッ!!
う、裏拳が…こ、このナーションにダメージを与えるとは…
「………」
疾風は静かにその横を通り過ぎようとする。
「ま、待ってッ!!」
「あの…俺にどういったご用件で?」
そのまま走り去っても良いのに、疾風は律義にも足を止めて聞き返した。
「…忘れたなんて言わせねぇぞ」
そう言って、疾風に近寄ってゆく。二年生であることを示す記章が見て取れ、徐々にその顔がはっきりとしてくる。
「!」
疾風は顔に出さないように驚いた。
階段付近でぶつかった人物であったからではない。その時には判らなかったが、この人物には見覚えがあった。
半年程前、依頼を受けて助けた者である。
「…すみません、あの時は急いでいて」
だが、疾風はぶつかったこと以外ははぐらかすことにした。
「違う!そんなことじゃない!!」
千代子が叫ぶ。
「判ってるんだからな!知ってるんだからな!
お前はあの時、アタシを助けてくれた奴だって!!」
知らぬ存ぜぬを貫き通そうと疾風は口を開きかけた。だが、それより先に千代子が口を開いた。
「何とか言えよ…」
目尻が夕日を浴びて輝きだす。
「ずっと探してても見つからないし…やっと見つかって、此所なら会えると思って待ってても全然来ないし…」
俯いた顔からポロポロと涙が落ち始める。
感情がコントロールできない。
「…やっと会えたと思ったのに…うっ…うぅ…」
千代子はとうとう顔を両手で覆い、本格的に泣き出してしまった。
疾風はどうして良いのか判らず、とりあえずオロオロとすることしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
疾風は千代子を校舎裏へと連れ出した。
5時半を過ぎているとは言え、流石にあの場で泣かれたままでは事情を知らぬ者に誤解されそうだと思ったからである。
「ごめん…変なところ見せちゃって…」
そう目を真っ赤にして謝った千代子に対し、疾風は苦笑いを返した。
「でも…そうなんだろ?あの時の忍者なんだろ?」
両膝を抱えて、校舎の壁にもたれかかったまま、千代子は真摯な視線を疾風に向けた。
(参ったな…)
心の中で呟いた。
完全にバレてるし、絶対に退かないと目が物語っている。