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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜後編》-2

───ドンッ!

「おわっ!?」
「きゃっ!?」

ちょうどタイミング良く曲がってきた相手とぶつかった。弾みで両者は尻餅をつく。

「いたた…テメェ…」

条件反射的に相手を睨み付けた。

「すみません…」

そう謝った相手を見て、千代子は言葉を失った。
ほとんど手を加えていない長めの前髪の隙間から覗く瞳。
それはまさしく、あの日自分を助けてくれた、あの名前も知らぬ相手の穏やかな瞳だった。

「ぁ…あ…」

言葉が出ない。
再会した時に言いたいことはたくさんあったはずなのに。

「本当にすみません…大丈夫ですか?」

相手は落とした眼鏡をかけ直すと、呆然とした千代子に心配そうに尋ねる。
ちょうどその時、予鈴が鳴った。

「すみません…本当にごめんなさい」

と言って足早に立ち去っていく。
残された千代子は座り込んだまま、呆然と虚空を眺めていた。

「……いた」

一筋の雫が流れる。
会えた…
やっと会えた…
夢幻のような出会いが今、漸く現実のものとなった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「う、う〜ん…」

疾風は身体を大きく伸ばした。机に突っ伏して寝ていたせいで、身体の節々が痛む。

「……アレ?6限は?」

疾風は寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見回した。教室の中には誰もいない。
確か、ちょっと仮眠を取ろうと眠りについたのが5限が終わってすぐの放課。
ふと、教室に掛けられた時計に目を向けた。
5時半。
窓の外では鮮やかな朱色の夕日が落ちていく最中である。

「やば…」

疾風は慌てて帰り支度を始めた。

(くそ…誰が起こしてくれよな…)

薄情なクラスメイトに悪態をつきながら、乱雑に教科書を鞄に詰め込むと教室を飛び出た。
階段や廊下を駆け抜け、靴箱のある昇降口へ出る。
その時、昇降口のところに人が立っているのに気がついた。

「や、やっと来た…」

その人物がちょっとハスキーな声を震わせて言った。
疾風は目を細めた。
逆光のせいで顔はっきりとは判らない。
視線を身体へと移した。
背は高く、胸は無い。
ますます判らない…
だが、よく見れば長髪や肩のなだらかなラインなど女性らしき雰囲気も無きにしも非ず…
辛うじて、制服がセーラー服であるので、長髪で女装趣味の男子で無ければ女子なのだろう。


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