刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜前編》-4
───パァン!
銃声が室内に轟いた。
千代子の茶髪が数本持っていかれる。
「静かにしろって言っただろ」
銃口が千代子を見下ろしている。
「次、騒いだら耳を飛ばす」
圧倒的な暴力に千代子は思わず震えた。
殺しはしないと判っていても死の恐怖が付いて回る。
猿轡は無かったら、カチカチと歯が鳴っていただろう。
ただ、純粋に怖かった。
「ざ、ザマアミロ!」
「テメェは額に風穴開けるぞ」
その言葉に、嘲笑っていた格下の男は再び黙り込んだ。
室内は死んだように静まり返る。
だが、それはすぐに破られた。
突然、銃声が響き渡った。ダダダダダ…と凄まじい音がする。
「な、何だ!?」
「黙れ!」
慌てる格下に対して一喝。男は静かに立上がり、銃に弾を込め、を両手で握った。
───シャラン。
喧騒の中だというのに、その澄んだ音色ははっきりと聞こえた。
「ぐえっ!!」
気付いた時には格下の首に鈍色の鎖が絡まり、地に叩き付けられている。
残った男は迷わずに鎖が伸びる陰に向けて発砲した。銃声が木霊する。
すると、その陰から一人の人物が現れた。
黒の忍装束を身に纏い、顔を同じく黒い覆面で隠している疾風だった。
唯一、露になっている双眸は鋭く、そして冷たい。
男は素早く弾を装填し、引き金を引いた。
しかし、疾風は少し右にずれただけで弾丸を回避。
「…チッ」
ありえない現象に男は短く舌打ち。そして、連続して引き金を引いていく。
だが、当たらない。忍者は滑るように男に近付いてゆき、全ての弾がその脇をすり抜けていく。
「…くそ、何で当たらない…」
「…遅い」
一気に疾風が距離を詰めた。銃を片手で押さえ込まれる。
「銃弾なんて引き金と銃口に注意してさえいれば当たらない」
男の腹部に疾風の持っていた匕首の柄がめり込む。
「ガッ…アッ…」
ドサリ。
男が膝から崩れ落ちた。
疾風は冷ややかに倒れた男達を見下ろすと、匕首を構え直した。
その視線の先には全てを見ていた千代子がいる。
少し怯えた表情だった。