刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜前編》-2
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その頃、民家の屋根を一つの風が駆け抜けていた。その風の名は忍足才蔵。疾風の父である。
(早くしなくては手遅れになる…)
凄まじいスピードで駆け抜けながら、キョロキョロと周りを見回す。
そして、路地へと入っていく黒いベンツと自分の息子を見つけた。
(間に合え)
そう心で念じながら才蔵はスピードを上げ、路地に入った。
「遅かったか…」
才蔵は思わず呟いた。
「父さん!?」
疾風が驚いたように振り返った。その周囲には四人のスーツ姿の男達が倒れ、呻き声を上げていた。
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「すみません…」
疾風が頭を下げた。
窓の外では景色が飛んでゆく。此所は先程の黒塗ベンツの中。
疾風の前には先程倒した男達が座っていた。
「いえ…こちらこそ…」
四人の中で一番格上と思しき、額に疵のある男が言った。
「すまなかったな」
才蔵がそうと男は黙って頭を下げた。
「でも、不可抗力だよ。黒塗ベンツ、スモークガラス防弾仕様につけられて、そこからいかにもヤクザな人達が降りてきたら、そりゃあビビるよ」
男達はハハハ…と力無く笑った。
ヤクザの自分達に高校生になったばかりの16歳が臆することなく平然と言うのだから笑うしかない。
「で、これは何なのさ?」
疾風は隣りで腕組みをする父に尋ねた。
「依頼だ」
「依頼?」
「ああ。この功刀組の組長とは昔からの付き合いなんだが、その孫娘が敵対する組に誘拐された」
才蔵は淡々と語り出した。
「で、組長としては全面戦争だけは避けたいそうだ。だから、俺とお前で内密に助け出す」
「お願いしやす!どうか何卒、お嬢を助けてくだせぇ!」
男達が深々と頭を下げた。それに合わせ、残りも頭を下げる。