『Lactic acid〜2体育祭編』-1
体育祭の日。9月といっても残暑が厳しい。真夏日だった。
グラウンドはいつも練習している様子とはまるで別物で、縦割りクラスの組ごとの作り物や組の色で祭りのようだった。
俺はこの日のために、試合と同じように調整してきた。体の調子もよい。これならいけると感じていた。
体育祭のルールは普段の大会よりはアバウトなルールだ。
予選は2組。6人中上位3人が決勝へ進む。もちろん、スターティングブロックもなくスタートは非常にやりにくい。しかし、それの対策も万全だ。
予選は平賀俊介とは別の組だ。その方が、俺としても自身の中で盛り上がって好都合だった。
予選は6人中俺を含む4人が陸上部員だった。そのうちの2人は400ブロックの宮田と上川だった。
選手集合場所で予選の組ごとに並んでいると宮田と上川がやってきた。
「先輩。手抜いてくださいよ」
「自分ら、マジついてないっすよ・・・」
2人はもうレースの前から諦めている。
「俺より、あいつに言った方がいいんじゃないか?」
俺は2人の後ろで入念にストレッチをしている、榊哲を指差しながら言った。榊哲は陸上競技部の100mのエースだった。うちのエースだからそれほどたいしたレベルではないのだが、それでもやはり、県大会まで進む実力はある。しかし、俺は負けるつもりはなかった。
「げっ。榊先輩も一緒かよ。まずいなあ・・・」
俺がストレッチをしていると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「よう。調子どうだ?」
ふり返ると、そこには、気持ち悪いくらいさわやかな笑顔で自分の組の色であろうピンクのTシャツを着た平賀俊介がいた。
「お前・・・ピンク似合わねえな」
「ほっとけよ。それより、予選敗退なんてやめてくれよな」
そう言うと、平賀は自分の予選組の列に戻っていった。
俺は予選一組目だった。6人がスタートラインに並ぶ。100m先には白いゴールテープが張られている。レーンの脇には組毎に多くのギャラリーでごった返している。単純に注目度なら公式レースよりもこっち草レースのほうが高いかもしれない。
「位置について・・・」
体育委員であろう生徒がスタートシグナルを構える。
俺はブロックない地面にクラウチングのポーズをとる。ブロックのない状態のクラウチングにほとんど効果はない。スタートの勝負は反射神経のみ。
「よーい・・・」
6人が腰を上げ、スターターは全員が静止するのを待つ。ここで、自分のペースに持ち込むために腰を高めに上げ、ゆっくりとベストポジションまで下ろす。時間が止まったかのように静寂が押し寄せる。
バンッ!!
火薬の破裂音と共に時間が動き出す。6人は一斉に動き出す。ブロックなしのスタートであるがさすがの榊だ。うちのエースだけあってスタートが上手い。10センチくらい俺をリードしていることが視界でわかる。そのままの間隔で50m。
(これなら・・・)
俺は、周りを確認して流し始めた。2位でも決勝に進める。決勝で榊と平賀俊介をまとめて破ってやる。
結局、榊、俺、上川とフィニッシュした。陸上部が上位を占めた結果となった。
まもなく、予選二組目がスタートした。二組目には、平賀俊介、同じブロックの桜、引退した3年生の短距離2人がいる。3年生は引退して2ヶ月以上経つから、正直今の平賀俊介に勝てないだろう。
しかし、予想に反して、50mまで、3年生2人と桜に続いて、平賀俊介は3位。このままでは、予選敗退だ。
「ここから伸びるぞ、俊介は」
隣で榊がつぶやいた。その言葉の通り、50mを過ぎてから前に3人との距離が縮まり、フィニッシュギリギリで3人をさしたのだった。
「スタート遅れてたなあいつ・・・」
平賀俊介は確実にスタートが遅れていた。立ち上がるのがあいつだけ遅れたのが誰にでもわかったくらいだ。しかし、それでもトップでフィニッシュしたのだ。