誘惑 〜childhood friend〜-1
生意気な悪ガキ。
私がヤツを評価すると、そうなる。
外ヅラだけはむやみに良くて、うちの両親でさえにっこにこ顔で大歓迎。
ヤツの両親が仕事で家を空けがちなのも手伝って、夕食を一緒に囲む事すらあった。
――冗談じゃない。
と、思ってたのに……。
その思いは、あるきっかけで破られてしまう。
簡単に紹介しておこう。
私、こと伊武櫻(いぶ・さくら)。十五歳の高一。
早生まれなので、誕生日はまだ。
彼氏は……いたけど、別れた。
交際一年を目前にして、あいつの浮気が分かって。
まぁ……体の方は痛いばっかりでちっともよくなかったし、いいんだけどね!ふん!
……負け惜しみじゃないわよ。念のため。
まあ、コイツの事はどうでもいい。
問題は、人の生活をさんざんに引っ掻き回してくれるヤツ……生意気な悪ガキ、相沢翔太(あいざわ・しょうた)。十三歳の中一。
おしめにいろいろ垂れ流してる頃から知ってる、文字通りの弟分……みたいな存在だった。
……一年くらい前まで。
昔は『おえーちゃおえーちゃ(舌足らず)』と言っては私の後をちょこちょこ付いて来たのだけれど……年頃になった途端に『ブス』『ババア』は当たり前。
最近は『ぺちゃぱい』と『ちび』がレパートリーに加わった。
……まぁ、私の身長は百五十三センチ内外というとこだから、『ちび』に反論はできない。
むしろ翔太は成長率が良くて、早くも百六十五は越えたらしい。
バレー部とバスケ部の掛け持ちをした上にテニスが趣味というバリバリの運動系だから、無理はないかも知れないけれど。
どれも女ウケするスポーツなのがあざといと思ふ、今日この頃。
……だけど!
私の胸はCカップもあるんだっ!ぺちゃぱいは失礼でしょおっ!
『信用できない。見せろ』とか『その割に見た目が小さい。計らせろ』なんてセクハラ発言された日には目も当てられないから、黙っているしかないけどさ。
こんな私達の関係が変化したのは、今から数ヶ月前の事。
「だっ……からぁ、何であんたがうちでくつろいでるのっ!?」
お風呂から上がった途端に、私は叫ぶはめになった。
リビングのソファに寝そべり、悠々とテレビを見ているヤツ……翔太の姿を目にして。
「ってかうちのお母さんは!?」
「回覧板回しに行ってそのまま戻って来てねぇよ、ブス」
ソファから身を起こし、翔太は私を一瞥する。
「……パッド入りブラジャーか?」
「馬鹿っ!!」
頭がかっとして、私は反射的に叫んだ。
「最低!信じらんない!」
最近は顔を突き合わせる度にいわれのない罵りを受けて……もう、限界が近い。
心がぼろきれみたいなのに、追い打ちをかけて来て……翔太は何で、こんなに意地悪なのよぉ……?
「……泣くなよ」
気まずそうに、翔太は私から視線を逸らした。
「ま、彼氏に慰めて貰えよな」
「そんなんとっくに別れたわよっ!!」
「……えっ!?」
ぎょっとした顔で、翔太が叫ぶ。
「な、何よ?」
あまりの反応に、私は涙も止めて翔太を見た。
「い……いつ?いつ別れたんだ?」
何でそんなに動揺してるのか分からない、けど……何でだろ?
「……この間」
でも私は……素直に答えていた。
「一年も付き合ったのに!?」
「あっちが浮気したんだもの!そんなの、我慢できないじゃないっ!」
「は……そっか。フリーか……」
……どーしてホッとした様子なの?
「帰る」
不意に翔太は立ち上がって、そう言った。
去り際に、ぽつりと呟く。
「泣かせて……悪かったよ。ごめん」