「君の趣味って何?」-2
俺はため息(三度目)をつきながら、
「そのプラス思考がうらやましいな」
ポツリと呟いた。
「え、何か言った?」
「いや、なんでもない。あと、用事が済んだなら帰ってもいいかな」
むしろ帰らせろ、とはさすがに言えない。
「まあまあ。まだ話は終わってないよ」
笑顔のままそいつは言った。
「それに僕の趣味をまだ言ってないじゃないか。聞かないまま帰ったりなんかしたら、今晩はそれが気になって眠れなくなっちゃうよ」
それはない。誓ってもいいだろう。今晩は熟睡できる、と。
「分かった分かった。手短に頼むぞ」
「僕の趣味はね、人の特徴を見つけることなんだよね」
人差し指を空に向け、そいつは喋りだした。
「で、今日僕は君の特徴を見つけたわけだ」
「先に言っとくけど、俺に外見的な特徴なんて無いぞ」
「人の話は最後まで聞く」
空を向いていた人差し指が俺の眼前に突き付けられた。
「何も特徴なんてのは外見ばかりじゃないんだよ。内面も立派な特徴さ」
こいつにしてはやけに理に適った事を言うなと感心した。
「で、俺の特徴とやらは?」
「ええっと、君の特徴はね…」
そいつは俺の目を食い入るように見つめる。
「いや、言わないでおくよ。知らないほうが良いこともあるしね」
そう言い残してスタスタと歩きだした。
俺はそいつの肩を掴み、
「待て待て! それじゃあ逆に気になるだろ。最後まで言ってくれ」
「僕の口からそんなことを言わせるつもりかい? あー、やだやだ」
「なんだよ『そんなこと』って!」
「さてと、お腹も減ったし帰ろうかな。あったかいご飯にホカホカお風呂ーってね」
結局、そいつは最後まで何も言ってくれなかった。
翌日。
「なあ、昨日のアレ、そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
そいつは焼きそばパンを食いながら、ああ、と言って、
「もう忘れちゃったよ。残念でした」
俺はそいつの焼きそばパンを取り上げ、窓の外へと放り投げた。道徳には反するが、自分を抑えられなかったのだから仕方がない。
今度はカラスではなく、名前も知らない小鳥の群れが鳴いた。
まるで、俺だけを嘲笑うかのように……。