夜明けの雨-1
私にとって一番幸せなことは、目覚めた時に愛する人がそばにいること……
* * * * * * *
雨が降っている
夜明けは、まだ遠い
僅かに身じろぎをすると、優しい口づけが頬に降りて来るのを感じた。
目を開けなくてもわかる。
同じシャンプーの匂い。
おんなじパジャマの手触り。
煙草の薫り。
私の人生で四番目の恋人。
恋はいつだって、この人が最後の人だと思って始まる。
けれど、
抱き締めあっても、
抱き締め合う度に、
どんなに愛し合ったとしても、二人の身体は、やっぱり二つのままで、一つになることは永遠にないのだと気付かされるだけ。
人を愛することは、美しくて、どこまでも哀しい。
幸せの中にポツポツある黒くて小さな不安。
いつか、そこから綻び始めて何もかもが昔みたいに真っ暗闇に包まれてしまうのかもしれない……。
『泣きそうな顔して眠ってたよ』
貴方の柔らかな声が耳元で響く。
私は、ゆっくりと目を開ける。
ベッドサイドのランプの灯りを消そうと伸ばした貴方の手を私は押さえた。
『だめ、まだ暗いもの。真っ暗なのは嫌……』
『もうすぐ朝だよ、雨は降ってるけど、すぐに明るくなる』
『でも、まだ暗い……』
『ねぇ、どうして暗闇が怖いの?』
こんな時に聞くな
んて、貴方はズルイ。
なんでも話してしまいそうになる。
雨音が強くなった気がした。
『私ね、父親と一緒に心中してたかもしれないの』
私の肩を抱いていた貴方の手に僅かに力が込められるのを感じる。
誰にも話した事なんてない……