返せなかった赤い傘:後編-1
次の日、医者から結果が出たから来てくれとの電話がかかってきたので、会社を早退して、病院に行った。
「お前の容態なんだが…深刻な問題だ。免疫値が前よりも下がっている。これはひょっとすると、すでにエイズに発病しているのかもしれない。いくらなんでも早すぎる…でもな、まだ頑張れるはずだ。お前なら、まだまだ先があるんだ。それを忘れるな。まだ今まで通りの生活だってできる。前向きに生きろ。」
俺は話の重さに潰されぬよう、ぐっとこらえた。
「まだ、頑張れるっていうか、頑張らなきゃいけないな。三年後、また三人で暮らせる日まで生きていたいしな。確かに深刻な話だ。でもな、結構考えたんだけど、受け入れるよ。そうじゃなけりゃあ生きていけないしな。それに、アイツらとの約束と、三年後の未来だけは病院にだって譲れない!だから…頑張るよ」
いつの間にか俺は涙を流していた。自然に流れた涙に気付いた俺は、涙を流したのがくやしいからなのか、悲しいからなのか、さらにボロボロと涙を流した。そして、さっきまでの強気を忘れて、声を出して泣いた。医者は、男の涙を静かに見守った…。
いつの間にか俺は涙を流していた。自然に流れた涙に気付いた俺は、涙を流したのがくやしいからなのか、悲しいからなのか、さらにボロボロと涙を流した。そして、さっきまでの強気を忘れて、声を出して泣いた。医者は、男の涙を静かに見守った…。
自分が発病した事を知った俺は、妻や子供に迷惑をかけないように、同居を断った。そして、日に日に弱っていく俺を心配してくれる妻を、俺は優しく抱き締めた。もう冬だ。寒さに凍える妻を少しでも、少しでもと冷たい体で身を寄せて暖めた。
今の俺があなたに伝えられるのは、きっと愛だけだろう…
その愛を、あなたに伝えたい
あなたとアイツの幸せのために
生きていたい…
そう思う事もきっと愛なんだろう…
なぁ神様…
俺、まだ生きていいかな?
今、死にゆくことなんて考えたら、ほんの一握りしかない幸せがどっかに行っちゃいそうなんだ
俺、妻や息子に迷惑かけてばっかだけどさ、その分のお返ししなきゃなんないんだ。
夫として、父親として、アイツらに本気で感謝の気持ちを伝えたいんだ!
元旦、今日は体の調子が良かったので、三人で妻の実家に行った。酒を進められたが、頭が痛いからと言って断った。
帰りの車の中、周市は疲れて眠っていた。
「そろそろ、行くのか?」
「えぇ。」
「…そうか」
俺は、流していたラジオを消した。
今、言わなきゃ…
でも、なんて言えばいいんだ…
妻が安心して旅立てる言い訳