深夜、竹林にて-1
客を目的地まで送ったタクシードライバーは、元来た見慣れぬ道を引き返していた。
「まったく…」
ため息混じりにタクシードライバーは独り言を呟いた。
辺りには街灯が疎らに立つのみで、あまりあてにならない光で道を照らしている。
大きな国道までがとても長く感じられた。
タクシーは竹林にさしかかり、ただでさえ頼りない明かりは笹の葉で殆ど遮られる。
何もないが、妙に体に鳥肌が立つ。無意識にアクセルを踏み込み、気を紛らわせるためか、タクシードライバーはラジオをつけた。
しかし、車内を耳障りな砂嵐の雑音が包み、不気味さに拍車をかける。
「ちっ」
タクシードライバーはチューニングのために手を差し出したとき、街灯の真下に立つ長髪の女が目に飛び込んできた。
「ひぃぃ!!」
アクセルをさらに踏み込み、タクシーはスピードを上げる。
しかし次の瞬間、スピードにハンドルが追いつかず、タクシーは竹林に突っ込んでしまったのだった。
「はぁ…」
竹林の街灯に照らされた女は、高く上げた右手を下ろした。
「あれで2目…失礼しちゃうっ」
事故のことをしらせようにも、あいにく携帯は『圏外』を表示している。
女は、もう通りそうにないタクシーを待つのをやめ、その場を離れた。
完