卒業の日-1
暇つぶし。人生なんて暇つぶし。くだらないから、適度に刺激与えなきゃやってらんない。今日は、暇つぶし。の、卒業式。
『だるー』
『つまんねー』
『皆泣きすぎっしょ』
心の中で次々と浮かんでは消える黒い私。それと対象的に、白い私は、答辞の最後の言葉で涙が零れそうになるのを必死で堪えている。矛盾だ。私は矛盾しているのだろうか。…あぁ、考えてる事自体がくだらない。早く終わってしまえ。
ホームルームでは先生が号泣していた。まぁそれもそうか。迷惑かけたもんなぁ…ごめんね先生。
私は涙は出なかった。大人になったのか、冷めただけか。
それから暫くは皆で騒いだり寄せ書きしたり、それなりに大いに楽しんだ。適度に疲れた。
『あ、ミクだ…』
「よっ!ミク」
「わぁ!よっ!今帰り?」
「うん、ミクは何待ち?」
「車待ち♪」
「あぁ、彼氏の」
「もろアッシーだけどね」
「だね」
解説:アッシーとはバブル時代に生まれた言葉で、…詳しくはお父さんお母さんに聞いて下さい。
「んじゃ」
「うん、またね」
「彼氏とラブラブしてきなー」
「そっちこそ彼氏出来たら教えてよー」
「気が向いたらねー」
彼氏。その手があったか。アッシーだと思われるのはちょっとやだな…。でも手荷物の量は半端ない。
そうこうしつつ、取りあえず連絡してみる。
「…お掛けになった携帯は、電波の届かない場所におられるか…」
思い出した。彼氏の携帯は今壊れている。
彼氏がいる事は内緒だ。ミクにも言ってない。言う必要もない。第一、そう簡単に人に話す事でもない。私の場合、話せない事情もあるのだが、今は触れないでおく。
あーあ。暇だ。何か面白い事ないかなー。
「ちょっとすみません」
「…はい?」
「この辺に◯◯っていうお店ありませんか?」
「あぁ、はい」
「場所分かりますか?」
「北ですよ。この道真っ直ぐ行って」
「すみません、実は今日来たばっかでよく分かんないんで…」
やばい。この手は…多分風俗の勧誘だ。
「私も地元じゃないんでよくわかんないです」
「そうですか。地元はどちらですか?」
やばい…捕まった。まぁいっか。暇つぶしにはなるよな。
「ここから三つ隣の市です」
「そうなんですか!実は私、その辺の店の者でして、あ、これ良かったら」
名刺…クラブ・GIRLs…いかにもだな。
「実は最近オープンしたばっかで人手不足で…あなた、来てみませんか?」
「どんな事するんですか?仕事内容は」
「えっと、まだ未成年…だよね?ならお茶飲んで話したり。時給は2000円からだよ。どう?」
「で、ベットまで行ったら5000円?」
「おぉ、話が早いね。まぁそんな感じ。実際はもうちょっと高いよ」
もうちょっと遊んでみよ。
「思ったんですけど、あなたみたいなボーイの仕事って時給高いんですよね?」
「えっ僕?…まぁそんなに悪くはないかな」
「相場はどのくらいなんですか?」
「その辺の求人情報誌に載ってるから、見てみてよ。何なら友達連れて遊びに来てくれると嬉しいなぁ」
頭はいいみたい。なぁんだつまんない。
「あの、彼氏と待ち合わせなんでそろそろ行かなきゃ」
「じゃぁ後で絶対連絡下さいね」
「…その気があれば、ね」