「私の好きな人は。」-1
「ね、先生。」
私の好きな人は、背が高い。
「何?」
私の好きな人は、私の担任。
「先生、結婚しないの?」
私の好きな人は、まだ独身。
「………。」
結婚の話を振ると、すねる。
可愛いな、先生。
「ね、先生。」
「何だよ?」
私は背が低いから、
「好きな人いないの?」
彼を見上げなければ顔が見えない。
「さあね。」
「ちゃんと答えてよー。」
「いるよ。」
「本当っ?!」
「嘘。」
私の好きな人は、嘘吐きだ。
「うわっ、ヒド!」
そんな一面も、好きだけど…
「ははっ。」
「教えてよー。」
「生徒がそんな事知らなくても良いんだよー。」
生徒扱いされるのは好きじゃない。
「アタシも居るもんっ。」
「へぇ。」
「もっと何か反応してよっ。」
「誰々?超知りたい〜」
子供扱いされるのも、好きじゃない。
ちょっとは、大人に見て欲しい。
「先生だよ。」
って言ったら、どんな反応するかな?
「ありがとう。」
「えっ?」
「俺なんでしょ?」
………あれ?
「アタシ、言っちゃったの?」
「バッチリ聞いちゃった。」
人指し指と親指で○を作って、笑う先生。
「嬉しいよ。」
言ってしまったのは想定外だけど…過ぎてしまったからには仕方ない!!
「じゃあ、先生付き合ってくれる?」
「お前が良い女になったらな〜」
「もう充分じゃない!」
「ははっ、ばーか。」
あぁ、何で言っちゃったんだろう…恥ずかしすぎる…。
「何泣いてんの。」
「なっ…泣いてなんかないやい!」
「ないやい、だって。おもろいなー。」
「うっ…先生嫌い…」
「お、ヒドいな。俺はお前好きだぞー。」
それは、生徒としてじゃない!!
思いっ切り睨みつけると、先生は笑った。
「怖いぞ。」
そう言って、手をパンパンと2回叩く。
「…別に良いもん。」
「すねるなよ。」
眼鏡の奥の二重の目は、からかうように細くなる。
ポン、と私のよりも二回りくらい大きい手が頭に乗っかる。
「卒業するまで、待ってな。な?」
そう言って、彼は指で○を作った。
私は、涙が溜った目で彼を見つめた。
「う、うん…。」
「良し。じゃ、そろそろ帰れよ!」
「う、うん…さよなら…。」
そう呟いて、部屋を出る。
ドア越しに彼を見た時、耳まで真っ赤だった。
私の好きな人は、不器用らしい。
私の好きな人は、照れ屋らしい。
●End●