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春一番
【学園物 恋愛小説】

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春一番-1

校舎の隅、暖かな風に吹かれて芝生に寝転がる。眼前に広がるは蒼い空。午前十時を少し回ったところなものだから、着崩した制服が陽当たりの良さでほどよく暖かいのがまた眠気を誘う。

何を隠そう今は授業中、つまり俺は授業サボっちゃってます。眠気には勝てそうもないから中庭に足を運んだ訳なんです。



「龍虎(たつとら)君、こんなとこで何をしてるんですか?」

しばらくしてようやく眠りに落ちられそうな頃声がした。自分を呼ばれて目を開けると、誰かの顔が逆さに見える。もちろん俺をこう呼ぶのは一人しかいないから誰かはわかりきっているのだが。

「俺の名前は龍田泰虎(たつたやすとら)。'田泰'を抜かすんじゃないって何回言えばわかるんだよ、委員長」

しかしぶーたれる俺を尻目に委員長は呑気なもので、

「だって一人の名前に龍に虎がいるなんてカッコいいじゃない。どうせなら一緒に呼んであげようというありがたい気遣いを無駄にする気?」

と、イタズラな微笑みを見せるだけだ。
文句を言う俺だが実は彼女に龍虎君と呼ばれるのは、満更じゃない。彼女だけが呼んでもいいあだ名みたいでなんとなく嬉しい。

「それよりなんで授業でないんですか?そんなことじゃまだ5月の半ばなのに留年決まりますよ」

あっ、っと思い出したようにそういう委員長。特別美人な人ではないがこんな風にコロコロ変わる表情がとてもかわいらしい。みんなその魅力をあまりわかっていない。ちょっと気になる存在、俺の中での委員長の位置付けはそんなものだ。

「だって眠たいんだもん。ってことで委員長も一緒に寝よ。ほら腕枕してあげる」

なんて軽い冗談を言ってみれば、

「そんなのいりません」

と顔を真っ赤にしてソッポ向いてしまったりする。
ほら、すっげーかわいい。

思わず笑みが溢れそうになる頬を両手で揉みほぐして、再び目を閉じて眠りにつこうとした。

しかし何か横に気配を感じて、その方向を見ると委員長が寝転がっている。

「いや、ちょっとオネイサン。なんであなたまで寝てらっしゃるの?仮にも委員長でしょ、あなたは」

その言葉にも、しれっとした態度なものだから小憎たらしい。

「それは問題ないわ。だって私は龍虎君と違って先生に保健室行くって言ってきたもの」

「けっ、そりゃ抜け目のないことで。」

こうゆうとこしっかりしすぎててかわいくねーのな。


30分くらい経った頃だろうか。なぜか委員長はやたらと寝付きが良くてすぐに寝てしまったのだ。そんな委員長が寝返りをうちながら小さく丸まっている。元々小さな体をさらに小さくするその恰好に妙に愛らしいものを感じた。

日本の北の方にあるこの地は5月でも冬が明けたばかりのためまだ少し肌寒い。だから俺は自分の着ていた学ランの上を脱いで彼女にかけてやってから、自分の手を枕にして再びまぶたを閉じた。


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