doll U-3
『あーあ。絶対さっきの服買ったほうがよかったのにな』
洋服屋から智花と裕奈は出るとショッピングモールをさらに進んでいた。裕奈は洋服屋をでてからもやはり智花の服が気になるようだった。そんな様子の裕奈を苦笑して智花は見つめる。
そんな時、智花は犬の鳴き声を聞いたような気がして足を止めた。
『この先にぺットショップがあるの。智花って犬とか好きだよね。行ってみない?あたしもねそこで買いたいものがあるんだ』
途中で歩を止めた智花に気が付いて裕奈は言った。裕奈が示した方には確かにペットショップがあった。
智花はこんなところにペットショップがあったことは知らなかった。おそらくここも最近になってできたお店だろう。
『いいけど、裕奈ってペットでも飼っているの?裕奈の部屋じゃペット飼っちゃダメなんじゃないの』
確かに裕奈の部屋では飼えないはずだった。それに裕奈がペットを欲しいなんて事も智花は初耳だった。裕奈がそんなこと言うなんてめずらしいなと智花は思った。
『うん。今はペットがいるわけじゃないんだけどね。そうね。うちの部屋でも飼う事のできるペットのための準備かな』
裕奈はそう言うが智花にはなにか隠しているように聞こえた。そんなことを考えながら、智花は裕奈につづいてお店の中に入った。
中に入ると思ったよりも広く、主に犬とそのグッツが販売されていた。
『あっ。あたしちょっと買いたいものがあるからちょっと待っていてくれる?』 そう言うと裕奈は首輪などが販売している所に向かった。
『裕奈ったら、犬でも飼っていないのにどうして首輪なんか探しているんだろう?しかも犬って裕奈の部屋でも飼えるのかな』
智花は疑問に思ったが、裕奈が足早に向かってしまったので後で聴くことにした。
裕奈が向かった先には、首輪の他にも犬用の服やおもちゃが売られていた。
最近は犬にも服を着させている人たちがいるみたい。智花は犬が服を着せてもらって嬉しいと思っているのか疑問だった。
そう智花が考えているうちに祐奈がやってきた。いつのまにか彼女は何か買っていて袋を手から下げていた。智花は何を買ったのか聞くが祐奈は秘密といって教えてくれそうになかった。
『すぐに分かるわよ。あっ。もう日がこんなに傾いている。もっと智花と二人っきりでいたかったのに残念。』
智花は裕奈に手を引かれ、ペットショップの外に出る。気が付けばもう夕方になっていた。
『仕方がないよ。湊が待ってる。お土産を買って帰ろう。あたしはね、またデートしたいって思っているから』
智花がそう言うと裕奈の顔は紅く染まる。それは決して夕日に照らされたからだけではないはずだ。智花はそんな彼女が本当にきれいだなと思った。
『あっ。あたしだってそんなの決まっている』
街を行きかう人は帰路へとつく。智花たちも湊の待つ家に帰った。
昼間のにぎやかな太陽に変わって月が空を謳歌する。舞うように輝く星の下、智花たちはそれぞれくつろいでいた。
智花はベットの上に横になってファッション雑誌を開いていた。お風呂に入ったあとのシャンプーやボディーソープの香りが心地よく感じる。自重で柔らかな布団が静かに沈む。智花が寝返りをうつと、布団の沈みもまた変わる。智花はこの柔らかな布団が好きだった。
静かに流れる時間では今日一日の出来事が自然と思い返された。智花は自分をデートに誘うことに必死だった裕奈の様子を思い笑みを浮かべる。楽しかった思い出が智花を幸せな気分にさせていた。
そんな時だった。裕奈が智花の部屋にやってきたのは。