HAPPY LIFEJ-1
「明日香、プリント見せて」
英語の授業中に隣りから私にかける声。
「はい、どーぞ」
いつものようにプリントを手渡す。サンキュと口を動かしながら、私の机の上にイチゴミルクのキャンディーを転がした。
私はその包みをひらいて先生に見つからないようにそっと口の中へ放り込む。
あの日以来、私たちの交際は順調に進んでいる。怖いくらいにね。
あの後すぐに夕里と早絵に報告したんだけど、あっそう、なんて言われた。二人に言わせてみれば、私たちは放っておいてもいずれくっつくことになると思ってた、とかなんとか。
「明日香、帰ろう」
授業が終わって、口の中のキャンディーもなくなりそうになった頃、これまたいつものように一緒に帰ろうと私を誘う雄大。
「私職員室寄ってくから、いつものとこで待っててくれる?」
「あぁ、じゃぁ先いくわ」
教室から出て行く雄大を目で見送って机の中から取り出したのは、第一志望・T大学と書かれた『進路希望調査票』ってやつ。
この大学に行くには正直ちょっと難しいって言われてたんだけど、やっぱり諦められない。
私、将来は英語の教師になるのが夢なの。私より明日美の方が向いてるのかもしれないけど、これだけは譲れない。譲るとかそうゆう問題じゃないんだけど。
「そうか。この前のテストの結果もよかったしな。他の教科も手抜くなよ」
いつも親身になってくれる先生。感謝してます。入学式の日、カツラだなんて言ってごめんね。いや、実際に言ったわけじゃないんだけど。あの後すぐにカツラ疑惑は晴れたし、いいよね。
「帰っていいぞ。がんばれよ」
「はい、さようなら」
足早に職員室を出ると、真っ先にあの場所へ向かった。
"いつものとこ=自転車置場"
「私…」
なにやら話し声が聞こえる。雄大と…誰だろうあの子。雄大の背中と重なって顔がよく見えない。
「私、先輩のこと、ずっとスキでした」
ん?!…今のって…告白?
慌てて校舎の影に身を隠した。別に隠れる必要なんかないのに。こんなとこ見ちゃうなんて、タイミング悪すぎ。
タッタッと走り去って行く音に気がつくと、女の子の後ろ姿が見えた。
完全にその姿が見えなくなってから雄大に声をかけた。