幽霊と一緒〜受難編〜-1
この僕、神道零(ゼロ)にとっての「悩み」とは、一般的な「悩み」とは大きく異なるものだった。
一般高校生の普遍的な「悩み」は進路や部活でのスランプ、あるいは恋愛と言った青春真っ盛りなものだろう。正直な話、かなり羨ましい。
ではここで、僕の大きな「悩み」を言わせてもらおう。
どうすれば疾風(ハヤテ)と璃逢(リア)がおとなしくなってくれるんだ?
今日も1日が無事に幕を下ろした。
学習に用いる教材がまったくと言っていい程入っていない鞄を肩に掛け、夕飯のメニューを考えるが、ダメだ、眠くて頭が回らない。
考えるのも面倒なので本日の夕飯はカレーに決定。もちろん労力を使わないレトルトだ。疾風たち二人からはブーイングの嵐かも知れないが知ったことじゃない。働かざる者食うべからず、なんて素晴らしい格言だろう。
教室を出た時、後ろから突然肩を掴まれた。
「零〜、待てよ〜」
ぐったりとした蒼氷(ソウヒ)が中腰で僕の肩を掴んでいた。ゾンビに見えなくもない。
「一体何?」
どうせろくでもない事と予感しながらも、律儀に聞く。
「ピンチなんだよ、助けてくれ」
「……わかったから手を離せ」
蒼氷の手を払い落とす。このまま逃げることも可能だがそうもいかない。
僕は軽く溜め息をつき、
「で、どうしたんだ?」
「実は大変な事態になったんだ」
僕にとって無縁であることを願う。
蒼氷は真面目な表情になり、
「……市村に補習をくらっちまったんだ」
よし、帰ろう。
バカを捨て置き、踵を返した。
「この冷血人間!」
蒼氷が叫んだ。
ああそうさ。僕はオイルと油圧式ポンプで動く冷血人間だ。
「そんなんじゃ市村みたいになっちまうぞー!」
教室の扉が開いた。
「沖田、誰が冷血人間だって?」
振り向くとそこには冷血人間こと……いや、これは言ってはダメか。市村先生がニヤニヤした顔で言った。
「え? 僕ったらそんなこと言いました?」
体を震わせながら蒼氷が言った。
「僕ったら」ってお前……はっきり言えば痛いぞ。
その後、蒼氷の命運は尽き、僕は家に帰ってレトルトカレーを温めるハズだった。ハズだったんだ。
数分後、今度は下駄箱で肩を掴まれた。さっきと違うのは手が二つってことだ。シカトを決め込み、一歩進んだところ、次は両手も掴まれた。よって手は4つで犯人は二人。はい、犯人は確定。あいつらしかいないよな。
「零、いやに早いご帰宅だね」
さわやかスマイル幽霊の六道(ロクドウ)疾風が言った。
それに続くように、
「どーして私たちに一言ぐらい声をかけないかなあ?」
金髪碧眼少女の死神、璃逢・メイティスが八重歯を見せた。
一つ聞きたいことがある。お前たちは本当に「あの世」の者なのか? 特に璃逢、金髪碧眼の死神なんて古今聞いたことがないぞ。もしかしてどこかに等身大の大鎌でも隠し持ってるんじゃないか?
僕は肩を落とし、
「夕飯の買い物に行くんだから仕方ないだろ。それとも夕飯抜きでもいいのか?」
なぜか璃逢はニヤリと笑った。
「へぇ、でもね、レトルトカレーなら家の棚に置いてあるよ」
「ちょうど三人分ね」
疾風が付け足した。
「なんでメニューが分かるんだよ……」
「私、読心術が使えるんだよね」
「けど俺は使えないんだよね」
厄介な力を持っているんだな。疾風、お前は一体何が使えるんだ? さては無能か?
「そういうのは初めて会った時に言ってほしかったな」
もしかしてこれまで考えてたこと全てがこいつに読まれてたんじゃないだろうか。