幽霊と一緒〜受難編〜-5
そこには体操服姿も女子生徒たちがいた。そして、みんなこっちに振り向いた。「気にしないで下さい」とも言えない空気だ。
「…疾風」
場の空気をまったく読んでいない鈍感な疾風に耳打ちする。
「どうやってこの場を切り抜ける?」
「え、普通に歩いていけばいいじゃん」
無茶言うな。僕はお前ほど図太い神経を持ち合わせていないんだ。
「零、早く行かないと先生が来て反省文ものだよ」
璃逢からの忠告。
『ねえ、あの二人って神道君と六道君じゃない?』
『あ、本当だ。女の子二人連れ込んで何してんのかな? 怪しいよね』
『でも私、六道君は許せるわ。だってカッコいいし』
『それ私も思ったー』
女性陣から軽蔑と差別のこもったお言葉。目から水が出ているのは気のせいだろう。
耐えきれなくなった僕は、疾風を引っ張って体育館を走り去った。
昼食時、学食は生徒たちでごったがえして……いると思いきや、意外と空いていた。
ほとんどの生徒が弁当らしく、学食に人影は少ない。
幸か不幸か蒼氷はそこで昼食をとっていた。まあ、僕にとっては幸だ。
「隊長殿、目標を発見しました」
超至近距離で疾風が言った。僕にだって見えてる。
「で、どうすんの? 無理矢理飲ませるわけにもいかないぞ」
「大丈夫よ。棗から鎮魂錠の正しい使い方は教えてもらったしね」
璃逢がポケットからファンシーな柄がプリントされたメモ用紙を取り出した。
もしかしてそれ、黒川のか?
「棗によると1日1錠らしいわ」
毎日飲む必要もないがな。
「食後?」
「は?」
「いや、だから、服用するのは食後なのかって聞いてるんだ」
璃逢はパタパタと手を振り、
「やだなあ、そんなの関係ないわよ。要は飲めばいいだけ」
……設定がややこしいの適当なのか分からなくなってきた。
「問題は飲ませ方だね」
疾風が言った。
「自然な形で飲ませるのがベストなんだけど。零、何かいい案はない?」
「腹痛の薬とか言って誤魔化せばいいだろ」
本日2回目の名案。何だか今日はさえてるな。
「バカ、お腹の調子が悪いかどうかも分からないのに無理に決まってるでしょ」
バカ言うな。あの世でバカと言う方がバカって習わなかったか? いや、今はそんなことどうでもいい。
「死神の力で出来ないのか? 軽い腹痛を起こすとか」
「ああ、なるほどね」
疾風がポンっと手を叩いた。
「人工的にってのは気に食わないけど、この際仕方ないわね」
ぶつぶつと文句を言いながらも、璃逢は蒼氷に向かって手を伸ばした。
これで蒼氷の具合が悪いときに僕が近付き、鎮魂錠を腹痛止めと偽って飲ませれば完璧だ。
「うっ!」
突然、蒼氷が床に倒れた。
待て待て待て待て! いくらなんでもやり過ぎだ!
「あれ? 失敗しちゃったかな?」
璃逢が自分の頭をコツンと叩き、「エヘ」っと笑った。可愛い子ぶってる場合ではない。
蒼氷を見ると倒れたまま痙攣している。
救急車でも呼んだ方がいいんじゃないか?
「零、出番だよ」
疾風が僕の背中を押した。
今行けと?