幽霊と一緒〜受難編〜-4
「どうぞ」
テーブルに湯呑みを慣れない手付きで置いた。
「……どうも」
黒川は無表情のまま言った。
「あ、俺はコーヒー」
「私はレモンティー」
そんなもの我が家にはない。
「用件は?」
黒川に聞いた。
「昨日考えたんだけどね」
なぜか璃逢が応えた。お前には聞いちゃいないが、この際よしとしよう。
「蒼氷の力は封印しようと思うの」
昨日の過激な発言とは180度変わり、平和的な発言だ。
「ただし、難易度は上がるよ。で、俺のコーヒーは?」
殺すよりはマシだ。あとコーヒーなら自分で煎れてくれ。
「どうやってだ? 生コンに詰めて東京湾にでも沈めるか?」
疾風の苦情は無視し、僕は璃逢たち二人に聞いた。
「そこまではしないわよ。詳しくは棗が知ってるわ」
璃逢がそう言うとお茶を黙りながら味わっていた黒川は、
「これを飲ませれば……」
黒川が小さな布袋から取り出したのは黒い錠剤だった。
「力を鎮める薬、通称“鎮魂錠”」
「ずいぶんとまがまがしいな」
「地獄で作られたから」
「参考までに聞くけど、これを疾風たちに飲ましたらどうなるんだ?」
答えによっては今晩の夕食に入れてやろう。
「ただ美味しいだけ。身体には何の害もない」
あ、そうですか。何だか興醒めだ。
「それで私たちが思いついたのよ」
「蒼氷にこの鎮魂錠を飲ましたらいいってね」
さすがに疾風もコーヒーは諦めたらしい。
つーか、鎮魂錠を飲まして事が治まるのなら最初からそうすればよかったじゃないか。もしかして黒川が鎮魂錠を出し渋ったのか?
そして、あっという間に休日は終わり、月曜日がやってきた。
「じゃあ作戦を説明するね」
僕たち四人は体育館の倉庫にいた。
何もこんな怪しまれる場所で作戦会議なんてしなくてもいいだろ。
「問題はどうやって飲ませるかだね」
「あいつが飲むお茶にでも混ぜるのはどうだ?」
我ながら素晴らしい提案だ。
「薬がそんな一瞬で溶けるわけないでしょう」
「それに鎮魂錠は溶かしてしまっては効力を失う。直接飲ませないといけない」
黒川が言った。
同時に僕の名案は音を立てて崩れ去った。
疾風が思いついたように言う。
「じゃあ、弁当に埋め込むってのは? うまくいけばゴマと間違えるかもよ」
ばれるに決まってるだろ。
僕たちは疾風の案を無視した。
「あ、オブラートに包んで……」
「却下」
名案が浮かばないまま四人が腕を組みながら「うーん」と考え込んでいると、
「あっ!」
何かを思いついたらしく、璃逢が声を上げた。
「次の時間、女子が体育館を使うんだった」
「……」
「……」
しばし、沈黙。
ちなみに男子は外だ。それもサッカーときたから自殺に等しい。僕が死んだら教育委員会を呪ってやる。
「と、言うことは」
僕が言うと同時に疾風が倉庫の重いドアをあけた。