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幽霊と一緒
【コメディ その他小説】

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幽霊と一緒〜受難編〜-3

「蒼氷が精神的な暴走を起こせば現世とあの世の均衡が崩れてしまう。幸い、沖田は未だ力に目覚めていないので一般的な人間と何ら変わりはないが、いずれは覚醒してしまう」
 何が何だか理解できなかった。ただ分かったことは蒼氷の奴が僕と同じ霊能力を持っているということだ。
 昔から付き合いのある友人がまさか自分と同じ力を持っているとはな……。
「次に言うことが今回の話で最も重要なことだからよく聞いてほしい」
 黒川に続いて喋りだしたのは、以前、屋上で会話したときのような真面目口調の疾風だった。
「俺たちは“遣い”としてやることがある」
「……何をする気だ?」
「沖田蒼氷が覚醒する前に抹殺する」
 聞いた途端、頭に血が上ったのがわかった。
 疾風、お前はそれを本気で言っているのか?
 疾風は変わらない口調で、
「たった1人の人間が消えるだけで二つの世が救われるんだ。目を瞑れ」
 たった1人だと?
 気付いた時、僕は疾風の胸ぐらを掴んでいた。
「お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」
 たとえこいつが前言撤回しても許しはしないだろう。
「じゃあ聞くが、お前は1人の人間と世界を天秤に乗せたとしたらどっちが重いと思う? 結果は火を見るより明らかなはずだ」
 ダメだ。これ以上こいつの言葉は我慢できない。
 右手に力を込め、振りかざした。しかしその右手を振り下ろすことが出来ない。璃逢が不思議な力で僕の動きを止めているのだ。
「落ち着きなさい零!」
 黙れ璃逢。僕はこいつを一発殴らないと気が済まない。
「仕方ない……」
 黒川がポツリと呟くと、怒りで真っ赤だった視界が暗くなった。つまり何か魔法のようなものをかけられたのだ。
「な……に…を」
 意識が遠退いた。
「あなたをここに呼んだのは沖田を消滅させるのに協力させるため。だが、今のあなたにそれは無理」
 黒川が言っていることもほとんどが耳に入らなかった。もうダメだ。完全に意識が……。
 そのまま、僕は倒れこんだ。


 目が覚めると、目の前には白い天井。僕の部屋だった。
 あ、よくある夢オチってやつか。うん、きっとそうだ。
 扉が開いた。
「起きてる?」
 璃逢が顔を見せた。食事当番の璃逢はエプロン姿にお玉を持ちながら(エプロンの柄はドクロだ)、
「もしもーし」
「大丈夫。起きてるよ。今、そっちに行くから」
「疾風は先に食べてるからね」
「あぁ」
 普段の日常と何ら変わりない光景だ。食事当番が寝ている二人を起こし、各々が自由な時間に登校。……やっぱりあれは夢だったんだな。
 リビングに行き、テレビを点けた。土曜日のせいなのか、ニュースに出ているキャスターは平日とは違う人物だった。
 誰も知らないようなマイナー芸能人のスキャンダル情報を観ていると、朝食を終えた疾風がソファーに座り、
「あーあ、ついにバレちゃったか」
「なんだ、この芸能人知ってるのか?」
「新人だけど有名だよ。もしかして知らないとか?」
 自分としては芸能ニュースも押さえているつもりだったんだが、テレビの中で記者会見をしている人物が誰かもわからない。
「初めて見た。ニュースは欠かさず見ているつもりだけどな」
「どれだけ見てても知らないことだってあるよ」
 そりゃそうだ。僕だって今だに疾風や璃逢が何をしに来たのかは知らない。
「そう………例えば身近な人が意外な能力を持ってたりね」
 疾風は不適な笑みを浮かべた。
 もしかしてあれは夢ではなかったのか? 現実なら、疾風たちは蒼氷を……。


「まぁ、安心してくれてもいいよ」
 疾風はリモコンに手を伸ばし、チャンネルを替えた。
「それより早く朝ご飯食べた方がいいよ」
 そうだな。冷めた味噌汁ほど不味いものはない。
 ……璃逢が普通の味噌汁を作れたならの話だが。
「もうすぐ棗が来るからね」
 あぁ、そっちか。
 もうどうでもよかった。
 成るように成るさ。多分ね。


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