『「ぼくと彼女」という平凡なタイトルの作品の平凡な一日』-1
「お兄ちゃん。……二人っきりだね」
柔らかく微笑む彼女は可愛い。
「……」
視線を強く絡ませ合うぼく達は、周囲の目にはどのように映っているのだろうか。まるで恋人同士のように見つめ合うぼく達は……。
「お兄ちゃん……」
彼女は再びぼくをそう呼び、口付けを求めるかのように、その大きな丸い瞳を瞼で覆った。此処には自分達を知る人が一人もいない。だからなのだろう、彼女は普段よりも大胆になっている。
ぼくはそんな彼女の前髪をそっと掻き上げ……
一閃。強烈なデコピンをお見舞いしてやった。
「うにゃっ!?」
額を庇うように押さえて後ずさる彼女。
「う〜。ヒドイよ〜」
額に手を当てたまま、彼女は涙目でこちらを睨みつける。小動物みたいなかわいらしさってのは、こういうやつのことを言うのだろう。
「人がいる場所でそういう事をするな」
「なによ〜。こんなにかわいい女の子が甘えてるんだよ? 少しはよろこびなさいよ〜」
頬をぷくっと膨らませた彼女。そんな表情も堪らなく可愛いとおもってしまうぼくは、バカなのだろうか。
「そんなにぼくを喜ばせたいのか。それなら今日の夜は期待してもいいんだな?」
ぼくのその言葉に、彼女は一気に茹で上がった。軟体動物のかわいらしさ……。そんなものあるのか? いや、無いとは言い切れないし……。
その議論は後ほどするとして、取り敢えず顔を赤く染めたままの彼女のおでこにもう一発。
「あぎゃ!?」
およそ女らしいとは言えない悲鳴をあげた彼女。
「なーにやらしいこと考えてんだよ。今日の晩飯当番、お前だろ? たまには手の込んだ物を作ってくれって意味だよ」
「う〜。だましたな〜」
「なんにも騙してない。勝手にエロいことを想像したお前が悪い」
「ぶ〜」
高木か? とは突っ込まず、ぶーたれてる彼女に不意打ち。突然の行動に驚いたのか、目を見開いて固まる。
そして数秒後、緊張が解けるやいなや、ムードってものが分かってないとばかりに、そっぽを向いてしまった。
「ほら、拗ねるな。そろそろ行くぞ」