『「ぼくと彼女」という平凡なタイトルの作品の平凡な一日』-4
「お兄ちゃん……エッチィこと、しよ?」
バスタオルを一枚だけ纏った彼女は美しい。
「……」
タオルの結び目が彼女の手によって解かれ、ハラリと舞い落ちた。
ミロのヴィーナスが美しいと言うのなら、彼女のこの姿は神々しいと、そう表現できるだろう。この見解には、主観が多分に混じっているだろうけれど、それでも最低限、美しいとは言える筈だ。
しかし、透ける下着ってのは、裸よりヤラしいな……。
「ね、お兄ちゃん……」
彼女はその滑らかな曲線をぼくの体に絡ませ、そしてそのままベッドに倒れ込んだ。ぼくが彼女の後頭部に手を回して頭を少し持ち上げてやると、彼女はそっと両の目を閉じた。そんな彼女にぼくは……
「訳の分からんボケをカマすな。ぼくにそんな属性はない」
一閃。問答無用のデコピンを食らわせてやった。
「はうっ!?」
額を押さえ悶える彼女。かなりいい感じに入ってしまったようだ。呻き声すら上げずに悶絶している。
しばしの間、天井をじっと見つめていると、彼女はいつの間にかこちらをじっと睨みつけていた。暗くて表情がよく分からないけれど、態度から恐らく拗ねているであろうことが伺える。
「ひどいよひどいよ。かわいいかわいい奥様が旦那様のために、頑張ってムードを盛り上げようと最近ハヤリの『萌え』を実践してあげたんじゃない。ちょっとはよろこびなさいよ〜」
「『お兄ちゃん』は止めろ。萎える。どうせなら『ご主人様』とかにしてくれ。それなら萌える。いや燃える」
「なによ〜。ちょっとは嫁さんをいたわろうって気にはならないの〜?」
「ああ、ならないね。ならないから覚悟しろよ。今夜は久し振りに、陽が昇るまで寝かせない予定だから」
ぼくの台詞に、彼女は「んなっ!?」と悲鳴を上げた。
「『ご主人様』でもなんでも呼ぶから、それだけはかんべんして。ね、おねがい」
「何言ってるんだ。ぼくを喜ばせたいんだろ? だったら頑張れ。心の底から応援してるぞ」
「やだー!」
ぼくは暴れる彼女の、左右の手首を押さえて、そのまま全身に口付けを贈った。
まあそんな感じの、どこにでもいるような平凡な『ぼくと彼女』の平凡な一日が、こうして幕を閉じた。