『「ぼくと彼女」という平凡なタイトルの作品の平凡な一日』-2
「これ、どう?」
恥ずかしそうに微笑む彼女は可愛い。
「……」
店内を回り、気に入った商品があればそれをぼくに見せに来る。
「似合う?」
ぼくの目の前でひらひらとさせ、その後に服の上から試着する。
どうやら彼女は、色合いの濃い物を所望のようで、赤や紫を選ぶ割合が非常に高い。このことは別に構わない。ぼくの好みが水色やピンクであることも、この場合は横に除けといて良いだろう。
「これ、ちょっと大人っぽすぎるかな」
照れたような表情で尋ねられても、こちらとしては、
「そうかもな」
と、無表情で応えるしかない。
それも仕方ないだろう。だからと言って、彼女の行動が殊更不可解という訳でもない。彼女はこの店内において、ごく自然な行動を示している。
ならば何故、ぼくはこんなに居心地の悪い思いをしなければならないのか。理由は明快だ。
「これなんてどう?」
黒い下着をぼくの眼前に突き付ける彼女。
そう、下着。
彼女が突然、「新しいブラがほしい」とか何とか言い出して、ぼくを強引に此処まで連れてきたのだ。
ぼくも一応と言うか、真っ当に男なので、専門店に居ることはかなりの抵抗がある。辺り一面それしか置いていないのは、正直を言わなくても、目のやり場に困る。どこを向いても目に入るし、かと言って、天井や床ばかりを凝視していれば、それは結構怪しい男だ。笑っていたりしたなら間違いなく不審者だ。だから無表情で彼女を眺める以外、ぼくに出来ることはない。
「ほら、こんなのとか……」
かなり透けて見えるそれを試着した彼女は、その姿を、頬を赤らめながら見せてくれる。服の上からでもかなりヤラしい。そしてぼくは無表情。
この状況を周囲から見たら、こうなるだろう。
『恥ずかしがる彼女に、刺激的な下着を強引に勧める男』。
勘弁してくれ。
「これ、とか……」
上と揃いで、かなり布地の少ない下ばきも差し出した彼女。先程よりもさらに顔を朱に染め、恥ずかしそうに俯いている。そしてぼくは無表情。
店員が、気の毒そうな視線を彼女に送っている。
誰か、助けて下さい……