はなもよう-1
「すみませーん」
「はーい!っほら、望(のぞむ)、早く出て!」
中学三年、夏。部活を引退してからは親にこき使われっぱなしの毎日であった。
まだ八月、夏休みは半分も経っていない。
しかしそこは受験生、午前から補習などやっていて休んでいる気がしない。
そのうえ家に帰ればこの始末。花屋を営んでいる親の手伝い、という名のタダ働き。暇ではないし、つまらなくもないけど物足りない日々。
「お待たせしてすみません」と、レジへ行く。
「……佐倉君」
「は、えぇとどちら様で?」
見ず知らずの少女に名前を知られている程、俺は有名になったのか?いやそんな訳ないだろ。
「あ、ごめんね急に…あの、私佐倉君と同じ学校なんだけど」
………さっぱりだ。
「ごめん、覚えてないんだ」
「ううん、いいの。こっちが一方的に知ってるだけだから。いつも授業の時眠ってて先生に怒られてるって有名だから」
嫌な話だな、先生に怒られて…だなんて。自業自得だけどさ。
包んだ花を手渡す。種類の違う花がまとまって可愛らしく見える。さすが俺、センスいい。花を選んだのは彼女だけど。
「ありがとう」
それを受け取る彼女の笑顔が、とても可愛い。自分が花束でもプレゼントしたみたいだ。
「じゃあねー」
「ちょっと待って!」
とっさに、立ち去ろうとする彼女に声を掛けていた。
「なに?」
「……名前、教えて?」
何を言おうか一瞬考えて、今更過ぎて恥ずかしいが、名前を聞いた。
「水嶋綾女です」
中学最後の夏休みはまだまだこれから、自分の中で何かが始まるような気がした。