刃に心《第19話・戦、始まりて…決戦編》-1
疾風は朧を保健室のベッドに寝かせると、急いでクラスの控えテントに向かった。
そこでは、スウェーデンリレーに出ていた4人がぜぇ、ぜぇと肩で息をしていた。
《第19話・戦、始まりて…決戦編》
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「大丈夫?」
「悪い…負けた…」
疾風が声をかけると武慶は苦しげに呟いた。
「おかしいぜ…アイツら…ぜぇ…」
「たし……」
「……かに」
「どうしたんだ?」
「…疲れないんだよ…400メートルの奴なんか…最初から最後まで…速度が…はぁ…落ちなかった……」
疾風は霞のクラスである1年A組の方を見た。
選手達がハイタッチを交わしている。
ふと、霞と視線がぶつかった。
霞はにやりと笑うと、右手の親指を立て、自らの首を水平に切るように動かす。
「あの野郎…」
可愛さなど全く余らないくせに、憎さ百倍な妹を見て、疾風は忌々しげに呟く。
「術使ったな…」
彼方と間宮兄弟に聞こえないような低い声。
「どういうことだ…?」
何とか立ち上がった武慶は聞き返した。
「…霞の奴、催眠で脳のリミッター外しやがった」
「…マジで?アイツそんなことできるのか?」
「ああ。昔、一回だけかけられたことあるから判るんだけど、アレ使うと疲れは感じないし、身体が驚くほど軽くなるんだ」
「…反則じゃないか」
「ただ…」
「ただ?」
「明日は地獄なんだろうな…」
何処か遠い目をした疾風が言う。
「副作用が凄まじいんだよ…脳のリミッター外した分だけ身体に負荷が掛かるから、明日は筋肉痛で指一本動かすだけで身体が引き裂かれそうになるんだ…
それはもう…生きながらにしてライオンとか、そういう肉食獣に喰われるような…」
疾風は青い顔で身震いした。
多分、想像を絶する痛みなんだろうな、と武慶は心の中で推測。
「でも、やばくないか?明日は悲惨でも、今日は大丈夫なんだろう。その反則技を女子にも使われたら、ウチに勝ち目は無いぞ」
「いや…女子には使わないと思う。というか、使えない。
男子なら兎も角、鍛えてない女子に使ったら、筋肉痛じゃ済まない」
「ということは…」
「その他の手段に出ると思う」
すると、スピーカーが唸った。
『女子スウェーデンリレー開始します!選手は所定の位置に付いて下さい!繰り返します。女子…』