刃に心《第１９話・戦、始まりて…決戦編》-9
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「疾風？疾風！何があった！おい！」
突然、疾風の声が聞こえなくなった。
ゴールまでは１０メートルもない程である。
だが、今までのことを考えると、何があるか判らない。
歩幅は自然と小さくなる。先程までは疾風が隣りで一緒に走ってくれているような気がしていた。
だから、あんなにも安心できた。
だが、今はその声が無いだけで、こんなにも不安になる。
「疾風…」
口から弱々しい声が漏れた。後ろから来た者に並ばれる。ゴールまで残り約５メートル。
「楓ぇええ────────────！！」
突然、疾風の声がした。
声の方向へ目を向ける。自分の教室の窓から疾風が身を乗り出していた。
楓の瞳の色が変わった。
恐れはもう無い。
残り約２メートル。
「飛べぇええ────────────！！！」
その声とともに楓はゴールのおよそ１メートル手前で踏み切った。
隣りを走っていた選手が地面に飲み込まれる。
３度目の登場、落とし穴。
そして、楓は身体でテープを絡めとりながら、着地。
『ゴォオオル！！今、２−Ｅがゴォオオル！！そしてえ、今年の体育祭を制したのも２−Ｅだあああああああああ！！！』
ゴールした楓はゆっくりとその速度を落とした。
クラスは狂喜乱舞のお祭り騒ぎ。
ふぅ、と大きく深呼吸をする。
校舎の入口から疾風がやってくるのが見えた。
楓は走り出した。
「疾風♪」
そして、その胸に向かって大きくダイブ。
ギュッとその身体を抱き締める。
「やったぞ！１位だ！優勝だ！！」
全身で喜びを表す楓だったが、逆に疾風は何とも言えない表情をしている。
「何だ？嬉しくないのか？」
僅かに身体を離す。
疾風は非常に曖昧で微妙な苦笑いを浮かべている。
「嬉しくないわけじゃないんだけど…周りを見た方が…」
そう言われ、疾風の肩に手を置いたまま周囲を見渡した。
お祭り騒ぎだったクラスは静まり返り、何かを期待するような視線を二人に向けている。
「あ…いや…す、すまぬ！」
楓は顔を真っ赤にすると勢いよく回れ右。
疾風に背中を向ける。