刃に心《第19話・戦、始まりて…決戦編》-8
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「疾風!?どういう意味…」
パァンと空砲が鳴り響く。両隣りの選手が動き出すのを見て、楓も慌てて一歩を踏み出す。
───ズボッ!!
踏み出した足がのめり込んだ。
「なああああ!?」
そのまま身体も落ちてゆく。
『出たあああ!障害物競争名物落とし穴だあ!!スタート直後に仕掛けられていた為、見事に全員がボッシュート!!』
「くっ…こういう事かぁ〜」
選手達が落とし穴から這い出す。
『始めに落とし穴があるって言おうとしてたのに…』
「そう言うことは先に言えー!!」
姿の見えない疾風に向かって怒声を浴びせながら楓は走り出した。
現在、楓を含む3クラスが横一直線。
『次の平均台は左から2本目を渡って!』
楓はその声に従い、左から2本目の平均台を進んだ。
「うわああ!!」
左隣りの選手が転げ落ちる。
『折れたああ!平均台が中央で真っ二つだああ!!そして、アレは…』
何処かのクラスの控えテント。長身の女子が飛んだ。その下からはトスで上げられたバレーボール。
バシィン。
「ゴホァ!?」
右隣りの選手の脇腹に痛烈なスパイクが炸裂。
『決まったああ!ナイススパイク!ナイストス!ナイスコンビネーション!』
楓は何とか無事に平均台を通過した。
『次、レーンを右に移って』
楓の背後で「ああああああ…」という声がした。またも落とし穴。
「助かった!」
『次のネットは右から3番目』
「ぬぅわあ!ふ、服が…接着剤がああ…」
『跳び箱は一番左!』
「へぶっ!…ふ、踏切板が跳ねな……い」
『パンは左から3番目!』
「ひぃやああ!か、辛い!カラシが、カラシがあああ!」
「ちょっと待て!パンは流石に判らぬだろ!」
『今のは何となく!』
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数々の障害物を乗り越えて、ゴールはもう間も無く。
「楓、後少しだ!頑張って!」
後はもう最後の直線を残すのみである。
『疾風、勝てるぞ!』
「ああ、でも気を抜くなよ。後ろから追っかけてきている。それに最後の…」
疾風は反射的に首を逸らした。耳元を手裏剣が掠めてゆく。
驚いて、振り返ると霞が床に寝そべった状態で手を伸ばしている。
「ふ…ふふ…させないわよ…」
死力までも使い果たした霞はガックリと再び倒れ込んだ。
「しまった…」
イヤホンのコードが切られている。楓の声は聞こえない。
「くそ…霞め、最後の最後にやってくれた…」
毒づきながら、疾風は思考を巡らす。
今からグランドに向かっても間に合わない…
疾風は勢いよく窓を開いた。