雪溶けて-5
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そっと目を開くと、目の前に愛しい男性がいた。
懐かしい笑顔で、少し困ったような表情をしていた。
見つめあって…けれど。
消えてしまった。
あなたは、どこ―。
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【春見柚月】
見覚えのある、いや、忘れもしない少女の名だった。
手洗いから出て、ある病室の外を通って。
機械で印刷されただけの文字が、大切なものに感じるほど。
その名を求めていたのかもしれない。
胸が締め付けられた。
「柚月。」
吐息か声か。
自分でもわからないくらいの声で呟いて。
そして。
中を。
のぞいて、しまった。
医師が、人工呼吸器を。
外そうとしていた。
視線を交わし。
彼が首を左右に振った。
引き寄せられるように、彼女の枕元へと近づく。
白い頬も、焦茶の髪も。
変わっていなかった。
ただ瞳は、何も捉えていない、ただのガラス玉のようだった。
その瞳が。
俺を捉え。
「また、会えた―。」
囁くような声だったけれど。
俺には聞こえた。
うっすらと微笑むような口元が、そう、動いた。
華奢な彼女の手を、両手で包み込む。
「柚月。会いたかった。」
俺の声が届いたのか届かなかったのか。
彼女は静かに瞳を閉じ、そして二度と開くことはなかった。
静かな雪の降る日―。
俺は、再び出会い。
そして、永遠に出会うことのない別れを。
知った。
今度こそ。
本当に。
二度と会うことはない。
窓の雪が、室内の温かさに、緩やかに溶けていた。
滴る滴と。
俺の涙が。
重なって見えた。
今度こそ。
また会えると、言いたかった。