刃に心《第１８話・戦、始まりて…激闘編》-1
秋風涼しく、空にはぽつり、ぽつりと鰯雲。
気温並びに湿度良好。
風向き及び今日一日の天気、オールグリーン。
今日は待ちに待った日ノ土高校体育祭。
普段は仲の良い者達も、今日ばかりは敵味方に別れて、熾烈且つ過酷な戦いに身を投じるのである。
《第１８話・戦、始まりて…激闘編》
◆◇◆◇◆◇◆◇
「…何やら、とてつもない闘気が満ちておるのだが…」
疾風の横に並んだ楓の言う通り、グランドに整列した生徒達から闘気が立ち上ぼっている。
その正面には本部と書かれたテントと白塗りの壇。
「こんなのはまだ序の口だよ」
疾風がそう返すと、スピーカーがウオオオン、と耳障りなハウリングを立てた。続いて、トントンとマイクを叩く音。
『えー、これより日ノ土高校体育祭を始めたいと思います』
司会進行の教師の声が拡大され、スピーカーから拡散する。
『では、校長先生のお話です』
本部テントの中でパイプ椅子に腰掛けていた頭髪も寿命も残り僅かの小柄な男が立ち上がった。
その様子に周りの教師が慌てて立ち上がるのを、プルプルと小刻みに震える手で制す。
よたよたと壇上に上がるその動作は、産まれたての子馬や子鹿を連想させる。
どちらかと言えば、産まれたて…と言うより、死にかけ…と言った方が正しいような気もするのだが…
そんな校長はおぼつかない動きで、マイクをスタンドから外した。
『今日はとても良い日になりました。絶好の体育祭日和です』
季節の挨拶。
だが、生徒のほとんどは静かにその一言一句に耳を傾けている。
『さて、ある有名漫画誌のモットーにこのようなものがあります。友情、努力、勝利。素晴らしい言葉ですね。だが…』
校長の震えが止まった。
『今日！この日！この体育祭に必要なものは、クラス内の友情と！如何なる手段、智謀、策略を考え、用いる努力！そして、純粋なる勝利のみじゃああああ！！』
大気を震わす大音量。
『友情、普段の学校生活の中なら大いに結構！だが、諸君らはこの場に何しに来たか、判っておろうな！？此所は今日一日、戦場と化すのだぞ！
その為に、身体面のみならず、精神面、そして頭脳面での努力を怠るな！
人は平等ではない！だからこそ、使える限りの武器は使え！！
それができた者こそが、唯一無二の勝利を手にすることを許される！！』
これが先程までの産まれたて、もしくは死にかけの馬や鹿と同じ人物だと信じられるだろうか？
『そして！諸君らの目当ての物もちゃんと用意してある♪』
校長は不敵に笑うと、懐からある程度の厚みのあるのし袋を取り出した。